昇圧、昇降圧、フライバック、フォワードコンバーターのような、ダイオードを介した連続電流で出力インダクターを駆動するトポロジーでは、ダイオードの導通時間によって帰還ループに遅延が加わります。負荷が突然増加すると、インダクターに伝送するエネルギーを増やすためにデューティサイクルを一時的に増加させなければなりません。しかし、デューティサイクルが高いと、ダイオードが導通する時間(tOFF)が短くなるので、tOFF時の平均ダイオード電流は実質的に減少します(図4の右側)。出力電流はダイオードを通して供給されるので、出力電流も減少します。平均インダクター電流が徐々に増加してダイオード電流が正しい値に達するまで、この状態が続きます。
ダイオードの電流が増加できるようになる前に、まず減少しなければならない、というこの現象は、右半平面(Right Half Plane)の不安定性として知られており、出力電流は一時的に、デューティサイクルと180°位相がずれます。例えば、簡単な昇圧コンバーター(連載第3回図4)では、次式に従って、一時的に追加のゼロが発生します。
とりわけゼロが負荷電流と共に変化しているときは、RHPによる不安定を補償するのはほぼ不可能です。解決策は、RHPゼロが発生する最低周波数よりかなり低いクロスオーバー周波数を持つ帰還ループを設計して(これには、ステップ負荷変化に対するDC-DCコンバーターの応答を遅らせるという短所がある)、昇降圧コンバーターを不連続モード(DCM)で使用して問題を全て排除することです。
帰還ループの不安定性の別の潜在的原因として、低調波分岐による不安定性があります。その根本原因は、帰還電圧レベルをタイミング鋸歯(きょし)状電圧ランプ(連載第8回ブロック図1を参照)と比較するPWMコンパレーターです。インダクター内のエネルギーがスイッチングサイクル毎に完全には放出されずに、誤ったタイミングで帰還回路に逆流するため、または、単純にコンパレーターの入力のスイッチングノイズにより、この問題が生じることがあります。その影響は同じで、PWMモジュレーターが分岐したビート、つまりダブルビートを発生します。
低調波による不安定の問題に対する解決策は、スロープ補償と呼ばれます。人為的なランプ波形(通常はインダクター電流のスロープから得るが、タイミングコンデンサー電圧から直接得ることもある)を帰還電圧に加えて、PWMコンパレーターの誤ったトリガーや再トリガーを回避します。
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※本連載は、RECOMが発行した「DC/DC知識の本 ユーザーのための実用的ヒント」(2014年)を転載しています。
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