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抵抗器(2) ―― 金属系皮膜、突入電流防止用、ヒューズ付き突防抵抗器中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(16)(2/3 ページ)

» 2018年02月23日 11時00分 公開

突入電流防止用抵抗器

 ACライン(商用電源)から平滑容量にブリッジダイオードを介して充電すると、電源投入時のACラインの位相によっては“√(2)×AC電圧/ACライン抵抗”で決まるラッシュ電流が流れます。
 例えば100VのACラインでは商用電源網の配線インピーダンスは0.067Ω程度なのでダイオードやフィルターなどの抵抗を1Ω程度としても140AP程度のラッシュ電流が瞬間的に流れます。(IP=√(2)×100/(1+0.067))

 このラッシュ電流によってACライン電圧は瞬間的に低下し、この電圧降下がACラインを通じて他の機器に伝搬します。この場合には機器のリセットや誤動作を引き起こす可能性があるのでスイッチング電源などのコンデンサー入力形の機器ではラッシュ電流を10〜20AP程度に抑制するために充電回路のループに抵抗を挿入することが求められます。この抵抗にかかるエネルギーJはサーミスタの項で説明したようにJ=C・VAC2で決るエネルギーになり、抵抗値依存性はありません。

 100V系で20AP程度に制限したければ136VAC×√(2)=190VP程度の電圧になりますので抵抗値としては10Ω以上の値が必要になります。

図3 図3:突入電流防止抵抗の例(タムラ製作所 20Kシリーズ)

 抵抗体としては抵抗値の範囲から前回の表4で紹介した全ての抵抗材料がカバーしますが、電源投入のサージエネルギーに耐えるだけの耐量が必要なのでサージ耐量の大きい巻線抵抗器が用いられることになります。その製品の一例を図3に示しますがこの種の抵抗器は、特別に突入電流防止抵抗器(通称:突防抵抗)と呼ばれます。
 このような突入電流防止抵抗器の仕様書、カタログには一定の条件下での電源投入回数かサージ耐量が保証されており、図4に示すような保証曲線か、サージエネルギー量(J=C・VAC2)が記載されています。

図4 図4:突防抵抗のエネルギー保証曲線例

 このエネルギー量は次のようなメカニズムで一定の制限を受けます。
同じ抵抗線材料で抵抗値を高くするには細い線を数多く巻回することになりますが線径が細くなりますのでラッシュ電流によって発生する瞬間的な熱ストレスによる膨張、収縮に対する疲労耐性が低下し、投入保証回数を上げることができません。
 逆に太い線を数少なく巻回すれば疲労耐性は上がりますが抵抗値を大きくできないのでラッシュ電流を制限することができません。目的の抵抗値に調整するには巻き回数でカバーする必要があり、抵抗器が大型化します。

 結局、形状を一定に制限した条件下ではある線径で巻ける最大の回数の時にサージ耐量が高くなることになり、設計に当たってはこの保証値を参考にしながら電力値、抵抗値を選択していくことになります。
 なお、長寿命機器の設計に当たってはエネルギーの保証値を軽減すれば投入回数を延ばすことができますのでメーカーに確認の上、各部の値を設定してください。

 一方、抵抗器を回路に挿入したままでは定常時に電源の消費電流が流れてしまいます。例えば100Wの機器であれば85V時には100W/85V/0.625=1.9Arms程度の電流が流れます。(力率0.625と仮定)
 この電流によって例えば10Ωなら36W程度の損失が発生します。

 このような損失は効率や安全上の観点から看過できるものではなく、通常は機器が正常動作に移行した後でサイリスタやトライアック、リレーを用いて抵抗器の両端を短絡して損失を低減します(図5)。

図5 図5:複数の突防抵抗の組み合わせ

 このような背景から、前回説明したNTCサーミスタに比べて部品点数が増加し部品原価も必要になりますが、エネルギー保証値との兼ね合いから中型〜大型電源などでは突防抵抗が多く用いられます。

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