では、「組み込みAI」とは何か? 一言で言うと「AIの推論アルゴリズムを組み込みアプリケーションに入れ込んだもの」だ。前述したように汎用マイコンの能力では、人工ニューラルネットワークを使ってディープラーニングを行い、推論アルゴリズムを構築することはできない。そこで、推論アルゴリズムの構築まではPCなどの他のコンピュータ上で行うか、クラウドに用意されたサービスを利用して行う。そして、その推論アルゴリズムをマイコンにプログラムとして書き込む。もし推論アルゴリズムを変更したい場合は、推論アルゴリズムの構築までさかのぼらなければならないが、そもそも組み込みシステムのマイコンのプログラムは頻繁に書き換えられることはないので、使用上は問題にならない。
逆に、この方法だと、ビジネスユースレベルのAIを比較的容易に組み込みシステムに取り入れることができる。
組み込みAI特長を挙げると次のようになる(図5参照)
組み込みAIでは、AIの推論アルゴリズムの構築はできないが、実行は可能だ。例えば「センサデータからの特定波形パターンの認識」「低解像度の静止画認識」「低解像度、低フレームレートの動画認識」「音データからの状況認識」「音声から特定のキーワードを認識」などである。すなわち、組み込み機器への入力信号/データについての判断や理解は可能なのだ(図6)
もし、推論アルゴリズムを変更したり、新しいアルゴリズムを追加したりする場合は、クラウドサービスやGPU内蔵のPCやサーバなどのディープラーニングフレームワークを使う必要がある。
追加の学習(追学習)した推論アルゴリズムを使用したい場合は、追学習させた推論アルゴリズムをマイコンに再インストールする必要がある(図7)
「組み込みAI」には専用ハードウェアは不要であり、マイコンで動作可能である。その際、低消費電力マイコンを使うと、長時間のバッテリー駆動が可能になる。またコストも低く抑えられる。また、クラウドでの処理やサーバ/GPUは不要になるので、組み込みシステムを小型化できる。さらにサーバ/GPUが使えない環境にも適応可能である。
ネットワーク接続なしでスタンドアロン動作ができるため、膨大な生データを送る通信(有線、Wi-Fi、LTEなど)が不要になり、ネットワーク遅延なく高速な応答処理が可能になる。その結果、ネットワークやクラウド負荷を削減できる。また、最近騒がれているセキュリティの観点で考えると、生データをネットワークへアップロードしないため、プライバシー確保やセキュリティリスクも低減できる。
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