ENBWが必要な理由を理解するために、フィルター機能のないADCを使って、低レベル抵抗性ブリッジの信号を測定するとします。この信号の標準的なフルスケール出力は10mVと低いことがあります。このような信号を測定するには、ADCの入力にアンプを追加して、目的の信号をADCのノイズフロア以上に増幅すると同時に、ADCのダイナミックレンジも広げる必要があります。他にフィルターがなければ、アンプのノイズは実質的にすべてADCに伝わります。この場合、ノイズを制限するのはアンプの帯域幅のみになりますが、これは数千キロヘルツ以上かもしれません。
幸いなことに、アンプの後にアンチエイリアスフィルターの追加も必要になるでしょう。このフィルターには2つの働きがあります。1つ目は、通過帯域に折り返されないように不要な信号を制限することです。2つ目は、通常は次の式2が正しいと考えれば、シグナルチェーンのENBWを、アンプの帯域幅単体の場合よりも大幅に減少させることです。
図3は、この新しいADC入力段をモデル化したものです。
式2の条件から、ADCに伝わるアンプのノイズをアンチエイリアスフィルターが制限することは分かりますが、それではどれくらい量のノイズが除去されるのでしょうか。さらに重要なのは、それでも伝わってしまうノイズがどれくらいあり、それがADCや測定結果にどう影響するのでしょうか。これを算出するには、アンプのノイズ特性を調べる必要があります。
図4は、1/f領域が大きいアンプの電圧ノイズスペクトル密度を表したものです。これだけでは、アンプの実際のノイズ寄与(紫の部分)についてこの図から分かることはほとんどありません。実際に、ノイズ密度が一定ではない(非チョッパ安定化アンプに共通の特徴)ため、ADCに伝わるノイズ量の計算がより難しくなります。
これを求めるには、システムのENBWを計算する必要があります。理想的なブリックウォールフィルター応答が明確になると、図5の赤い範囲で示すように、アンプのノイズのスペクトル密度曲線に重ね合わせることができます。
図5のアンチエイリアスフィルターは200HzのENBWとなるように設計されており、実質的にアンプのノイズのカットオフフィルターとして機能します。あとは、図5の黒い範囲で表されるこのノイズを計算するだけです。広帯域ノイズが支配的なときは、式3を用いてRMS(二乗平均平方根)電圧ノイズを計算することができます。
図4と図5のアンプのように、デバイスに大きい1/f(フリッカー)ノイズ成分がある場合は、直接積分を用いるか、簡易化された式を使ってデバイスのノイズ寄与を求めることができます。
この例では、ADCに伝わるRMS電圧ノイズの計算値は43.6nVRMSです。
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