システム全体でリファレンスノイズのレベルに与えるゲインの影響を低減するための方法をいくつか分析し、リファレンスノイズについての説明をまとめていきます。低分解能ADCと高分解能ADCに対するリファレンスノイズの影響の違いも考察します。
前回(第8回)は、A-Dコンバーター(ADC)のノイズとリファレンスノイズの関係を説明し、リファレンスノイズを求める計算式を導きました。また、システムのリファレンスノイズのレベルに与えるゲインの影響を確認しました。
今回(第9回)は、システム全体でこの影響を低減するための方法をいくつか分析し、リファレンスノイズについての説明をまとめていきます。低分解能ADCと高分解能ADCに対するリファレンスノイズの影響の違いも考察します。
前回に述べたように、データ収集システムに入るリファレンスノイズの量は、リファレンス電源のノイズ特性と、フルスケール範囲(FSR)の使用率に依存します。この使用率への依存を示すために、リファレンスが2.5Vと仮定し、ADCノイズ、リファレンスノイズおよび、総ノイズをFSR使用率(入力電圧)の関数としてプロットしました。図1は、プログラマブル・ゲイン・アンプ(PGA)内蔵の24ビット、デルタ−シグマADC「ADS1261」(Texas Instruments製)を使用して、この関係を表したプロット図です。
前回と同じく、使用率40%でシステムの総ノイズに対してリファレンスノイズが支配的になり始め、高分解能ADCで得られるノイズ面のメリットがなくなります。この影響を緩和して高精度のシステムを実現するために、リファレンスノイズを低減しデルタ−シグマADCによるノイズ削減メリットを生かす3つの方法があります。
1.低ノイズのリファレンスを選択する。システムに入るリファレンスノイズのレベルを低減する最も明白な方法の1つが、ノイズの少ない電圧リファレンスを選択することです。これにより、図1の赤い棒の高さが抑えられ、有効なFSR使用率の上限を押し上げる効果があります。
しかし、前回にも示唆したように、どの入力信号に対してもリファレンスノイズのレベルをADCノイズのレベルと一致させるようにしてください。例えば、ADS1261を使用して2.5Vの入力信号をサンプリングする場合には、1V/Vのゲインしか使用できません。このような場合、FSR使用率が非常に高いため、外部電圧リファレンス「REF6025」よりもノイズの少ない電圧リファレンスを選択しても、全体的なシステムのノイズへの影響はほとんどないでしょう(図1)
2.リファレンス電圧を高くする。他にリファレンスノイズの影響を低減できる方法としてリファレンス電圧を上げることがありますが、それは使用率が変化するからです。例えば、リファレンス電圧を2倍にすると、使用率が2分の1に減少します。ただしこの方法では、リファレンスノイズが比例して増加していない場合に限り、システムノイズのメリットが得られますが、常にそうとは限りません。多くのディスクリート電圧リファレンス製品は、リファレンスノイズがリファレンス電圧に比例して増減するため、μV/Vでノイズを規定します。この場合、リファレンス電圧が2倍になるとリファレンスノイズも2倍になり、使用率が減少するにもかかわらずシステムノイズのメリットが得られません。
3.有効ノイズ帯域幅(ENBW)を削減する。システムに侵入するリファレンスノイズの量を減らす3つ目の方法は、システムの全体的なENBWを制限することです。ENBWを制限する方法の1つは、アンチエイリアスフィルターまたはリファレンスフィルターのカットオフ周波数を下げることです。しかし、入力信号パスフィルターにC0Gタイプのコンデンサを使用することをお勧めします。その理由は、C0Gの電圧と温度係数が低いためです。シグナルチェーン設計で使われる標準的なC0Gコンデンサは最大10〜15nFのものしか提供されていないため、アンチエイリアスフィルターのカットオフ周波数の低さが本来的に限定されます。それとは逆に、リファレンスフィルターでは、電圧リファレンスのDC出力電圧が実質的に一定のため、より高容量のX7Rタイプのコンデンサーが利用できます。インピーダンスにより抵抗の熱ノイズが増加するので、どちらの種類のフィルターでも、低ドリフトで低インピーダンスの抵抗(10kΩ未満)を使用してください。場合によってはこの熱ノイズがシグナルチェーンのノイズの支配的要素になることもあるからです。
システムのENBWを低減するさらに一般的な方法は、ADCの出力データレートを落とすことです。図2に、ADCの出力データレートを落とすと、ADCノイズとリファレンスノイズの両方がどれほど減少するかを示します。例えば、ENBW=96Hz(右)からENBW=0.6Hz(左)の間で、100%使用率の際のリファレンスノイズは2.3倍減少し、ADCノイズは10倍減少しています。その結果総ノイズが大幅に減少します。
上記の3つの方法を用いて多くのアプリケーションでリファレンスノイズを低減することができますが、システムによっては安定化時間やセンサーの出力電圧などのパラメータが固定されている場合があり、これらの方法を採用するのが難しくなります。このようなケースでは、内部、外部、またはレシオメトリックといった適切なリファレンス構成を選択することで、システムに侵入するリファレンスノイズの量を低減できます。
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