今回は複数の負荷モードが繰り返される場合の機器の寿命をいくつかの負荷モードに区分して考えます。
前回はコンデンサーの寿命計算式として周囲温度Taではなく、缶の表面温度TCと自己温度上昇ΔTXを使った式を説明しました。その中でリップル電流IRによる自己発熱の温度加速係数αが5℃の場合は見かけ上、式の指数部を10℃則に統一できることも説明しました。
ただ、これらの寿命計算の式は単一の負荷モードのみの場合には適用できますが実際の電子機器では定格負荷や待機負荷、および最大負荷などの条件が組み合わさっています。今回はこのような複数の負荷モードが繰り返される場合の機器の寿命をいくつかの負荷モードに区分して考えます。
周囲温度Ta、リップル電流の温度加速係数αを用いた基本的な式を次に示します。缶の表面温度TCではありませんのでTCで計算する場合はαなどを前回の説明を基に換算してください。
実際の電子機器内の電解コンデンサーの使用条件はコンデンサーメーカーでの寿命試験のように一定の温度で使用されることはまれであり、いくつかの稼働状態や待機状態に合わせて周囲温度やリップル電流などが変動しながら使用される場合がほとんどなのですが1式や2式ではそのような組み合わせの状態を計算できません。
しかし、1式や2式はともに使用条件によるヒステリシスがありません。そのため負荷モードが途中で切り替わっても計算結果は次のように互いの影響を受けずに独立して計算できるので、仮に2つの負荷条件を考えた場合には次のようになります。
ここでL01、L02はLT1、LT2を規定寿命L0の条件に換算した時間、K1、K2は1式や2式の(LX/L0)の値です。
また実機における総合寿命時間をLTとし、LT1、LT2がLTに占める割合をδ1、δ2とすれば上記の関係から3式を得ます。
したがって多くの負荷モードを持つ実機での寿命計算はこの考え方を変形、拡張した4式で求めることができます。
【一般品での計算例】
105℃、3000H保証品、α=5℃を、
Mode1(Ta1=60℃、ΔTX1=5℃、δ1=33%)
Mode2(Ta2=40℃、ΔTX2=0℃、δ2=67%)
で使用した場合、寿命は何時間(何年)になるのでしょうか?
この結果よりMode1でL0の2394Hを分担し、Mode2でL0の607Hを分担していることが分かりますので寿命を延ばすにはMode1の使用条件を改善することが有効であることも分かります。
ただし、上記計算に当っては10℃則の適用下限が既に説明したように40℃までですのでTaが40℃以下であっても寿命計算時はTa=40℃としてください。
なお上記の寿命計算に用いる周囲温度Taは機器の最終設置方向によって変わります。特に卓上機器を天吊り型に使用すると設置方向が逆になりTaの様子も全く変わりますので寿命計算に当っては最悪の方向を事前に明確にしておくことが必要です。
【寿命計算におけるディレーティングの考え方の提案】
特性などの保証値に対するディレーティングであれば通常はダメージが残らないように使用値を80〜90%に抑えますが寿命に関しては破壊特性ですので保証値ではなく推定値、参考値、あるいは実験値などです。破壊特性である寿命は全数検査を実施すれば寿命の尽きたものしか残りませんので抜き取り検査のような形にならざるを得ません。「寿命の保証」要求とは一種の矛盾なのです。
このような背景から特別に顧客からの指定がなく、自社で判定基準をお持ちでない場合には温度やリップル電流の測定精度を考慮して測定値が寿命の規定条件を超えない範囲で判定すれば良いのではないでしょうか?
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