ほとんどの電源メーカーは、自分たちの製品の実際の故障率やデルタ故障率を測定するのに何年も待つわけには行きません。ましてや、信頼性の高い製品を作るのに十分なデータを集めることに50年もかけることなどありえません。信頼性値を得るための一番現実的な方法は、MIL HDBK 217のようなデータベースに基づく部品ごとの実験結果を使い、故障率を仮定することです。結果は理想的なものとはいえないかもしれませんが、単に推測したり、何十年もかけて有意義で強固なデータを集めることに比べたらはるかに現実的です。
しかし、十分な数の製品が市場に出荷されているか、長期にわたって試験されてきている場合は、実際の故障の記録に基づいた実証されたMTBFと呼ばれる、より正確な信頼性予測が可能になります。実践的な理由から、サンプルサイズと観察時間が限られているために、実際の故障数は少ないかもしれません。そのため、χ2(カイ二乗)分布のような統計的ツールが必要になります。このツールを使えば、かなりの信頼度(およそ95%)をもつ実証されたMTBF値を計算することができます。
故障率を知るためのデータベースや統計的モデルはこの他にもあります。MIL HDBK 217Fの次によく使われているのは、Bellcore/Telcordia-TR-NWT-332とIEC61709です。手法によって計算に使う仮定や動作ストレスが違うため(例えば、MILH-DBKの負荷条件は100%だが、Bellcore/Telcordiaはわずか50%)、結果は手法によって大きく異なります。同じ30WDC-DCコンバーターでも、MIL HDBK 217F通知2では、MTBFは43万5千時間ですが、Bellcore/Telcordia TR-332では300万時間以上、IEC61709 では約8千万時間です。しかし、どの手法を使おうと、2つの製品の性能基準が同じでMTBF値が異なる場合、MTBF値の計算に使われているモデルやストレス要因が同じなら、実際にはMTBF値が高い製品のほうが信頼性が高いと言えます。
信頼性は動作温度が上昇するにつれて低下するので、データシートに記載されているMTBF値は通常は室温でのみ有効で、そのように記載されていなくてはなりません。信頼性がそれほど温度に依存する原因は、化学プロセスの活性化エネルギーにあります。1898年、スエーデン人科学者アレニウスは、化学反応速度は温度に依存し、温度が10°K上昇するごとにほぼ2倍になることを証明しました。
アレニウスの式は、純粋化学以外の分野にも広く応用でき、多くの経年劣化が本質的に化学的(腐食、材料の分解、半導体格子の転位など)である、電子部品の寿命にも当てはめることができます。この式を変形すると、温度に依存する加速係数を求めることもできます。電子部品では、活性化エネルギーは0.6電子ボルトなので、加速係数は次のように求められます。
T(周囲) | 加速係数 |
---|---|
25℃ | 1 |
30℃ | 1.5 |
40℃ | 3 |
50℃ | 6 |
60℃ | 12 |
70℃ | 22 |
80℃ | 40 |
出典:RECOM |
ほとんどのデータシートの仕様では、基準温度は公称室温、または25℃に設定されています。これによって、温度別の加速係数は右のようになります。
この単純な関係から、周囲温度を25℃から50℃へと2倍にすると、経年劣化は6倍になることが分かります。もし温度を25℃からさらに75℃に上げると、経年劣化は約30倍になります。
この関係は逆方向にもあてはまります。温度が下がれば電子部品の信頼性は高くなります。しかし、非常に低い温度(-20℃未満)では、異なる素材の異なる収縮係数により生じる機械的ストレスで、はんだ接合部がもろくなることなどの別の要因が故障率を押し上げます。従って、アレニウスの関係は無限に応用できるわけではありません。
MTBFの計算をするにあたっては、単純な経年劣化以外にもストレス因子はありますが、計算してみると、温度が上昇すれば信頼性が低下することがはっきりと分かります。
周囲温度 | MTBF (MIL-HDBK-217F)(全負荷) |
---|---|
25℃ | 136万8813 時間 |
50℃ | 71万1033時間 |
85℃ | 22万6072時間 |
出典:RECOM |
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※本連載は、RECOMが発行した「DC/DC知識の本 ユーザーのための実用的ヒント」(2014年)を転載しています。
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