メディア

導電性高分子アルミ電解キャパシター(1)―― 導電性ポリマーとは中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(42)(2/3 ページ)

» 2020年04月21日 11時00分 公開

導電性高分子アルミ電解キャパシターの歴史

 導電性高分子キャパシターの開発の流れを表1にまとめます。

表1:機能性高分子キャパシターの歴史
 [PPy:ポリピロール MnO2:二酸化マンガン Mn2O3:酸化マンガン(III) σ:電気伝導度(S/m)]
時代 概要 発明者など
1896 湿式アルミ電解コンデンサーの発明 湿式アルミ電解の原型 Charles Pollak
1950年代初め 二酸化マンガン(MnO2)を用いた
タンタル電解コンの発明
ESRの温度安定性が良く、
σはアルミ電解コンの10倍
Bell研究所
1973 有機伝導体である電荷移動塩TCNQの発見 σはMnO2の10倍 A. Heeger
F. Wudl
1975 導電性ポリマーの発見(ポリアセチレン)およびドーピング法の開発('78) PPyやPEDOTのσは金属レベル 白川英樹、
Alan MacDiarmid他
1983 電荷移動塩TTF-TCNQを使用したキャパシター発売 OS-CON 三洋電機
1988 初のポリマー電解質(PPy)を用いた
キャパシターの発売
APYCAP 日通工
1991 PPy電解質を使用したキャパシターの発売 SP-Cap(ESRはMLCC並み) 松下電子部品
1993〜1997 陰極部をPPyとしたSMD型タンタル電解発売 NeoCap/POSCAP NEC/三洋電機
1999 有機導電性ポリマーPEDT(PEDOT)の発表 Kemet
2001 PEDOTを用いたアルミ電解コンの発売 製造法の簡略化 Kemet
2000 導電性ポリマーの発見による
ノーベル化学賞の受賞
白川英樹、
Alan MacDiarmid、
Alan J. Heeger
2000〜 ハイブリッド型導電性高分子キャパシターの発売(固体層に浸透できる液体電解液の開発) 低リーク電流、自己修復機能、有限寿命  
*タンタル自身が熱反応しやすいことに加えて二酸化マンガン(MnO2)を用いた旧来のタンタル電解コンは高温時にMnO2が(4MnO2→2Mn2O3+O2)に分解されて酸素が供給されるために燃焼が持続しますが導電性高分子キャパシターのポリマーは酸素供給量が1/1000程度のために燃焼の可能性は大幅に低下しています。

 図3に各種電解質の電気伝導度の比較を示しますが導電性ポリマーの電気伝導度が湿式電解液に比べて著しく向上していることが分かります。
(出典:EN.Wikipedia Polymer Capacitor 2020/04/08)

図3:各種電解質の電気伝導度

導電性ポリマーに要求される特性

 電解コンデンサーに用いられる電解質(液)の最も重要な電気特性は、電気伝導度です。
 湿式アルミ電解コンデンサーの稿で説明したように、電解質は陽極上に設けられた誘電体に接触して実質的な陰極を構成しますが誘電体は粗面化された陽極上に設けられています。このような背景から導電性ポリマーには電気伝導度以外にも次のような特性も要求されることになります。

  • キャパシターの電解質として使用される導電性ポリマーは低分子のモノマーを化学的な重合反応によって連続的に結合して作ります。
    キャパシターの静電容量には誘電体と電解質との接触面積が関係するため、誘電体の微細な凹凸に浸透し均質なポリマー層で覆う必要があります。このために重合前の低分子モノマーは微少な凹凸に浸透できる非常に小さな分子で構成されている必要があります。

  • モノマーもポリマーも、そしてこれらの残渣(ざんさ)も、誘電体表面とは化学的及び機械的に安定でなければなりませんし、導電性ポリマーは、長期間、広い温度範囲で高い安定性を備えている必要があります。
    加えて、引き出し電極として用いられるグラファイトや銀に対しても誘電体を保護しなければなりません。
    このような背景から、ポリピロール(PPy)またはポリチオフェン(PEDOTまたはPEDT)が多く用いられています。

  • また実際の製造工程では、重合速度を適度に制御する必要があります。重合速度が速すぎると微細な凹凸への良質なポリマーが得られず、重合が遅すぎると製造時間が長くなります。

【導電性塩TCNQについて】
 三洋電機時代のOS-CONに用いられたTTFーTCNQ錯体は名前にポリが無いことから厳密にはポリマーではありません。TTFーTCNQ錯体を用いたOS-CONは三洋電機がパナソニックに買収された2010年以降に順次廃止されているようです。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSフィード

公式SNS

EDN 海外ネットワーク

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.