マイコンの電気的特性の中でも、最も重要な項目が絶対最大定格です。この規格を守らないと、マイコンはEOS(Electrical Over Stress)になったり、ラッチアップを起こして破壊してしまったりします。また、破壊に至らなくても、ダメージを受けて劣化の原因となり、配線層や拡散層(PN接合)、絶縁層の破壊につながります。破壊モードの詳細は「Q&Aで学ぶマイコン講座(4):ラッチアップって何?」や「Q&Aで学ぶマイコン講座(38):ESDとEOSの違いと対策法」を参照してください。
図3にマイコンの端子の内部構造を示します。入力バッファー/出力バッファーと端子の間には、保護ダイオードがそれぞれ電源側とGND側に付いています。端子に電源電圧を超える電圧が印加されると電源側の保護ダイオードが順方向に、GNDレベル未満の電圧が印加されるとGND側の保護ダイオードが順方向になり、端子に電流(以下、逆流電流)が流れます。この逆流電流を流すことにより、端子の電圧を調整してマイコンのハードウェアを保護します。
ダイオードに逆流電流が流れると、ダイオードの順方向電圧VFが発生します。そのため、端子から見たマイコン内部の電圧は、「電源電圧VDD+ダイオードの順方向電圧VF」になります。また、GND側は「GNDレベル電圧VSS−ダイオードの順方向電圧VF」になります。そのため、実際にはVDDやVSSだけではなく、「VDD+VF」または「VSS−VF」が端子に印加されると逆流電流が発生します。
VFはダイオードの特性に依存するため、マイコンやデバイスで異なりますが、その多くは0.3Vを超える値です。図1で例に挙げたSTM8Sシリーズでも0.3Vを超える値なので、絶対最大定格では最大値が「VDD+0.3V」、最小値が「VSS−0.3V」と規定されています。
逆流電流が発生しても、電位差や電流量がマイコンのハードウェア(内部の配線材やダイオードを構成するPN接合や絶縁層)の電気的強度内に収まっていれば破壊まで至りません。しかし、電気的強度を超えてしまうとマイコンがEOSとなり、ハードウェアに損傷を受けて破壊に至ります。なお、破壊にまで至らなくても、ダメージを受けてデバイスの信頼性が損なわれてしまいます。
また、逆電圧の立ち上り/立ち下りが急峻でdV/dtが大きい場合、マイコンの内部まで到達し、任意の場所のPNPN接合をONすることになり、ラッチアップを誘発します。
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