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共振子(2) ―― 動作概要と使用上の注意中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(58)(2/2 ページ)

» 2021年09月30日 10時00分 公開
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水晶発振の原理

 振動子の動作は振り子運動を考えるとよく分かります。最初に振り子にわずかな力を加えて振動させると振り子の固有共振周波数で振動を始め、振り子時計のように周期的に与えるわずかな力で振動を維持できます。
 振動子は振り子に相当し、帰還回路を持った増幅器で振動子の信号検出と励振を与え、わずかな電力で振動を維持しています。

 水晶発振回路として有名なコルピッツ水晶発振回路はこの典型的な帰還増幅器として広く利用されています。その原理図を図3に示しますが、水晶振動子の両端信号をコンデンサーC1、C2で分圧し、C1の成分をB-E間に入力し、コレクタ電流ICによる出力成分(=IC・RE)を、C2を介して振動子に帰還して振動を持続させる構成になっています。

 したがって発振状態では、例えば、
C1信号が増加 → Icが増加 → RE電位差が増加 → 水晶振動子信号が増加 → C1成分が増加……
の正帰還動作になります。
 やがてhfeが低下する領域までIcが増加するか、出力電圧が飽和すると回路利得(正帰還作用)が減少し、水晶の等価実効抵抗=|トランジスタ等価入力抵抗| になる条件で安定状態になります。

 ロジック発振回路の場合は出力電圧が飽和して矩形波状になり、この矩形波信号が水晶振動子でフィルタリングされ基本波のみが帰還されることで発振を維持します。
 したがって発振の様子をシミュレーションするにはロジックICを線形的に構成しないと発振が持続しません。

図3:発振回路の原理と回路例 (クリックで拡大)

使用上の注意事項

表1:振動子の注意事項
周辺定数 マイコンなどのクロック生成用として使用する場合はマイコンメーカーの指定回路定数に従ってください。独自の回路定数を適用すると発振周波数の精度(誤差)、発振安定マージン、温度ドリフトなどの劣化やマイコンの破壊などにもつながります。
発振裕度 発振回路の負性抵抗(利得)が適切でない場合は発振の立ち上がりが不安定になります。
発振裕度の確認をしてください(図4)。
クロックの
扱い
クロック回路の動作安定には数ミリ秒程度の時間が必要になりますのでマイコンのクロックを周辺回路に供給する場合はクロックの動作が安定してから供給してください。
周辺回路からクロックをもらうときは安定した状態のクロックをもらうようにしてください。
周辺回路にクロックを供給する場合はバッファ回路を通じて供給しますがTTLではファンアウト数、CMOSにおいては入力容量による波形なまりに注意してください。クロックの遷移時間が規定されている場合は規定時間内であることを確認してください。
またバッファ付きロジックICで発振回路を構成するとIN端子に含まれるVth近辺のノイズが正帰還で増幅されて異常振動を起こす場合があります。
マイコンの
出力保持
クロックが安定するまではマイコンの状態をH/Lのどちらかに固定するなどして誤動作を防止してください。
衝撃・振動 振動子は機械的振動を利用しますのでどうしても水晶チップを空間に保持しなければなりません。その結果として外部からの衝撃に対しては周波数が変動したり破壊したりすることがあります。落下衝撃が避けられない手持ち機器では落下方向の妥当性も含めて事前に検討が必要になります。一般的に小型品ほど耐衝撃性は向上する傾向があります。
取り付け時の
ストレス
圧電特性を持っていますのでリードなどを通じて外部からストレスが加わると振動子が変形し特性が変化します。
励振レベル 発振器として振動子を利用するときのパラメーターです。
励振レベル(P=I2・R1)を上げ過ぎると、過大な振幅によって機械的ひずみを生じ最終的には振動子が破壊してしまう時があります。励振レベルが規定値(例えば100μW)以下になるように回路定数を調整してください。
*)負性抵抗:正帰還を利用していますので通常の計算では利得を表現できません。正帰還を意味する負性抵抗(ーR)を用いて利得を表現します。なお負性抵抗は周波数特性を持ちますのでメーカー指定定数以外では負性抵抗の周波数特性を把握しておく必要があります。

 また水晶振動子には次のような本質的とも言える特性があります。精度要求が高い場合は表1の注意事項に加えてこれらの影響も考慮してください。

表2:高精度振動子の注意事項
過大励振 過大な励振レベルによって周波数〜温度特性が特性曲線から変わる場合があります。
温度急変時の
周波数変動
周囲温度が急変すると過渡的に周波数〜温度特性が特性曲線から変わる時があります。
ヒステリシス特性 共振を利用していますので周囲温度の変化過程によりヒステリシスが出る場合があります。
周波数経時変化 パッケージ内のガスや水分の付着によって発振周波数がドリフトする場合があります。

発振裕度の調査方法(簡易法)

 図1の水晶振動子の等価直列抵抗R1の規格値(Max)の約5倍に相当する抵抗をなるべく動作環境を変化させないように振動子と直列に挿入します(図4)。
 発振するかどうか、セットが正常に動作するかどうかを確認します。
 発振波形が正常に立ち上がり、セットが正常に動作できれば発振裕度は5倍以上あると判断できます。
 一般的には発振裕度は5倍程度あれば問題はないと言われています。

 次回は水晶振動子ほどの精度が必要でない場合に用いられるセラミック振動子について説明をしたいと思います。


執筆者プロフィール

加藤 博二(かとう ひろじ)

1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。


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