さまざまな通信方式や放送方式が登場して電波利用が拡大したことにより、スペクトラムアナライザーの利用が増えてきた。また、身の回りにデジタル化した電子機器が増えたことやスイッチング素子を使った高効率なパワーエレクトロニクス機器が普及したことにより、ノイズ発生による問題が顕在化したので、原因究明や対策のためスペクトラムアナライザーが使われるようになった。
多くの無線設備は重要な社会インフラの1つとなっており、法律や規則に従った定期的な点検が義務付けられている。その際、送信機や送信設備の出力周波数、占有周波数帯幅、スプリアスはスペクトラムアナライザーによって測定される。下図には一般的な送信機や送信設備を点検する際の接続を示す。スプリアスを測定する場合、レベルが大きい搬送波によって測定器内部で発生する2次高調波などのひずみがスプリアスの許容値を超えるケースもある。その場合は搬送波をカットするために搬送波抑圧フィルターを用いる。
出力が大きな放送設備や無線設備などでは空中線(アンテナ)を外して測定することは難しいため、方向性結合器を使った測定が行われている。
生産ラインや保守点検の現場でフィルターの振幅周波数特性を安価に測定したい場合は、ネットワークアナライザーではなく、トラッキングジェネレーター付きのスペクトラムアナライザーが使われる。下図は水晶フィルターの振幅周波数特性を測定する際の接続図である。
2007年のテレビ放送のデジタル化により、それまでアナログ放送で利用されていた周波数帯の一部が解放され、現在は携帯電話に割り当てられている。このため、古いアナログテレビ放送を受信するための設備に取り付けられているブースター(増幅器)は、携帯電話端末や基地局からの電波信号を受け取って接続されているテレビ受像機に分配される。それによりテレビ受像機が正常に動作しなくなる現象が起きる問題があり、その要因を調査するためにポータブルスペクトラムアナライザーが使われる。
注)古いアナログテレビ放送用のブースターが携帯電話による障害を受ける場合は、ブースターの出力にローパスフィルターを追加することによって対処ができる。
その他にも、ブースターの配線工事が正しく行われていない場合、BS放送の中間周波数が漏えいして携帯電話の通信に影響を与えることもある。このような場合もポータブルスペクトラムアナライザーを使って電波環境の観測を行う。
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