メディア

38年前の記憶 〜半導体製造装置の不具合改善と闘ったあの頃Wired, Weird(2/4 ページ)

» 2022年12月16日 10時00分 公開
[山平豊(Rimos)EDN Japan]

第1弾の不具合――電源の焼損

 まずは焼損するスイッチング電源の図面を確認し、不具合の原因を調べた。しかし当時のスイッチング電源は新規に開発されたばかりの製品で関連する書籍がなかった。不具合が出る電源は5V、12V、15Vのマルチ出力電源で200WのRCC電源だった。15V出力の電圧が上昇し20Vを超えて電源内部の部品が焼損していた。電源の回路図を確認したら、過電圧監視回路が搭載されていなかった。

 早速報告書を作成し、本社を通じて電源メーカーに掛け合ってもらった。しかし、電源メーカーの回答は『電解コンデンサーの寿命が原因で15Vの出力電圧が上がり電源の部品が焼損している。部品の寿命が原因なので、致し方ない』という回答だった。本社の技術部門はこの電源の開発に関与しており、メーカーに苦情を言えなかった。

 しかし、クリーンルームで煙や火が出たら大問題になり大損害が発生する。顧客の信頼を得られないことは明白だ。このため、本社を飛び越して電源メーカーと直接交渉した。焼損防止対策として、二次側のDC15V電源に過電圧監視回路を追加し、ラッチして電源のスイッチング動作を停止する基板を作り、この基板を電源に追加するように電源メーカーへ指示した。この改造で焼損事故はなくなり、当面の問題は解決した。

 その後15V電源の電圧が上がってしまう理由が分かった。それはRCC電源特有の問題でメインの5V電源のコンデンサーの容量が低下すると5Vのコンデンサーの充電時間が早くなり、RCC電源の発振周波数が高くなって他の電源の電圧が上がってしまうことだった。この当時は、耐熱85℃の電解コンデンサーしかなく、電解コンデンサーの寿命は数年しかなかった。

 現在でもRCC電源はインバーターなどで多用されており、50W未満でシングル出力に適用するか、マルチ出力では他の出力の電圧が上がってもレギュレーターなどを入れることで、過電圧にならないように配慮して設計されている。

第2弾の不具合――システムが立ち上がらない

 電源の焼損の問題は解決したが、システム上にはまだまだ多くの問題があった。それはユニットの数が多くなるとソフトウェア上のシステム構成情報(コンフィギュレーション)が何時間たっても構築されないという問題だった。

 初めてハード設計(配線設計)を担当した装置の据え付けサポートをユーザーのクリーンルームで経験したが、この装置の立ちあがりも遅かった。冷えるクリンールームでエアーキャップに包まってオシロスコープの通信波形を徹夜で眺めた。通信ラインには常時0.5V程度のノイズがあり、通信回路のノイズマージンがないことが通信不良の原因だった。簡単な回路メモを図2に示す。

回路メモ 図2:回路メモ[クリックで拡大]

 このシステムは固定されたユニット構成ではなく、柔軟性があるシステム構成を目指していた。つまり、電源投入時に通信ラインから得られる個々のユニット情報で、ラインの構成をメインコントローラーで自動的に生成するシステムだった。すばらしい構想だったが、通信ラインにノイズが多く、これを実現するにはハードウェアの設計が未熟だった。

 この通信方式は『シンプルネット』と呼ばれ、現在のI2Cと類似している。2本線で通信ラインが構築され、出力はNPNトランジスタのコレクタが接続され、入力は4.7kΩの抵抗を通して別のNPNトランジスタのベースに接続されていた。NPNトランジスタのベースにはコンデンサーはなかった。20ユニット程度が通信ラインに接続され、配線のコモンは0Vで、通信の配線の長さは5mを超えていた。通信ラインには、常時0.5V程度のノイズがあり、トランジスタのベース電圧は0.6V程度で0.1V程度のマージンしかない。こんな電圧マージンのない回路では正常な通信ができるはずがない。

 通信不良対策で入力回路をコンパレーターへ代える設計変更が本社で進められていたが、この変更では基板交換が必要で現場での改造に多額の費用が発生する。もっと簡単な対策がないかと考え、4.7kΩの抵抗と0.1μFのコンデンサーを並列に接続し、図2の破線のように入力のNPNトランジスタのベースとエミッタに追加した。このコンデンサーと抵抗のセットが奇跡を引き起こした。

 この改造でノイズの除去とともに、しきい電圧を1V以上に引き上げた。据え付け中のユーザーの工場で基板を改造したら、電源投入して30秒ほどでシステムが立ち上がった。早速本社へ連絡して、設計変更を依頼した。改造要領を作成し、他の客先へ納品された全ての装置にも改造を指示し、サービス担当も全面的に協力して通信不良の問題を解決した。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSフィード

公式SNS

EDN 海外ネットワーク

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.