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ジャンクション温度の計算(6)―― 実機のスイッチング素子の温度計算中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(最終回)(1/4 ページ)

» 2023年07月31日 11時00分 公開

 2016年10月から始まった本連載もいよいよ今回で最終回となりました。前回は繰り返しパルス列の温度上昇について説明をしました。その説明を通じてパルス状の損失が発生する実際のスイッチング電源ではスイッチング周期に占める損失発生時間比率(δ)は極めて小さく、1回の繰り返し、つまり2発のパルスによる温度変化を調べれば十分だと分かりました。今回はモデル化された損失波形や実際の損失波形を用いて温度計算を行い実際の温度変動値を評価します。
 またダイオードなどで用いられるI2t値、過渡熱抵抗曲線が湾曲する時間領域の温度上昇についても説明します。

多重パルス損失による温度計算

 スイッチング電源に使用するMOSFETのチャネル温度のように損失の変動が素子の温度上昇に影響を与える場合には図1のようにパルス損失の重ね合わせとして計算します。
 図1においてP1はターンオン損失、P2はRon損失、P3はターンオフ損失、τはFETのオン期間、Tは1周期です。

  1. 図1(a)の損失波形から図1(b)の平均損失P4、P5を求めます。
    図1(b)においてP4は1周期Tの平均損失、P5はFETのオン期間τでの平均損失です。
  2. 図1(c)に示すように重ね合わせの計算を展開します。
     ①上記の通り1周期の平均損失P4が基礎的な定常温度上昇になります。
       ΔT1=P4×Rth(J-C)
     ②オン期間の損失変動の影響を計算するため1サイクル目のオンと同時に
      平均損失P5が発生するとします。具体的には(P5−P4)の損失をP4
      上乗せします。
       ΔT2=(P5−P4)×Rth(T+τ)
     ③オン期間τが終了すると損失は0になるためーP5の損失を加えます。
       ΔT3=ーP5×Rth(T)
     ④最終サイクルの温度上昇を計算するために上記①〜③の温度上昇に加えて、
      P1、(P2−P1)、(P3−P2)によるオン期間τ終了時の温度上昇を加算します。
     ④-1  ΔT4=P1×Rth(τ)   (P1の損失がτの間発生)
     ④-2  ΔT5=(P2−P1)×Rth(t2+t3)
           [(P1−P2)の損失が(t2+t3)の期間差し引かれます]
     ④-3  ΔT6=(P3−P2)×Rth(t3)
           [(P3−P2)損失がt3の期間重畳されます]
図1:スイッチング動作の温度計算例

 上記のP5を用いた簡易温度計算の精度を図2に示します。図2の損失波形はスイッチング電源の実際の損失波形をモデル化してあり、計算条件は以下の通りです。

  • 熱抵抗    :Rth(t)=3.679×√(t)
  • ターンオン期間:t1=100ns   P1=100W
  • オン損失   :t2=3.5μs    P2=1.43W
  • ターンオフ期間:t3=50ns   P3=400W
  • τ       :3.65μs
  • 1周期      :T=10μs

 これらの条件から各損失の1周期(10μs)の平均は次のようになります。
  ターンオン損失平均Pr=0.1/10×100   =1W
  オン損失平均   Pon=3.5/10×1.43  =0.5W
  ターンオフ損失平均 Pf=0.05/10×400  =2W
   ∴P4=3.5W  (1周期平均損失)

 このP4は1周期の平均損失ですから定常的な温度上昇[P4×Rth(J-C)]に関係し、過渡的な変動には寄与しません。

 またターンオン期間τ(3.65μs)の平均損失P5は次のようになります。
  P5=(100×0.1+1.43×3.5+400×0.05)/3.65=9.59W

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