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ジャンクション温度の計算(6)―― 実機のスイッチング素子の温度計算中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(最終回)(2/4 ページ)

» 2023年07月31日 11時00分 公開

簡易計算と詳細計算の比較

 オン期間中の損失をひとまとめにして平均化したP5を用いた簡易計算手法と1周期の損失を重ね合わせの理に従って分解、計算した詳細な計算結果を比較します。

①簡易計算結果
 1周期(10μs)経過後の温度上昇は
   [(9.59−3.5)×3.679×√(10μs)]−[9.59×3.679×√(6.35μs)]=−18.1m℃
となります。

②詳細計算
 一方、1回目のパルスの損失変動を重ね合わせの理で計算した1周期(10μs)の温度上昇は次のようになります。

経過時間 P1(100W、100ns)
の影響 (m℃)
P2(1.43W、3.5μs)
の影響 (m℃)
P3(400W、0.05μs)
の影響 (m℃)
-P3(-400W、6.35μs)
の影響 (m℃)
総合
温度上昇
100ns (100-3.5)×3.679×
√(0.1)=112.3
――――― ――――― ――――― +112.3m℃
3.6μs (100-3.5)×3.679×
√(3.6)=673.6
(1.43-100)×3.679×
√(3.5)=-678.4
――――― ――――― -4.8m℃
3.65μs (100−3.5)×3.679×
√(3.65)=678.3
(1.43-100)×3.679×
√(3.55)=-683.3
(400-1.43)×3.679×
√(0.05)=327.9
――――― +322.9m℃
10μs (100-3.5)×3.679×
√(10)=1122.7
(1.43-100)×3.679×
√(9.9)=-1141.0
(400-1.43)×3.679×
√(6.4)=3709.6
-400×3.679×
√(6.35)=-3708.3
-17.1m℃
表1:詳細温度計算

 簡易計算では1周期後の温度を求めているために中間の温度変動は計算できません。ですが表1から分かるように1周期経過後の温度変動は−18.1m℃と−17.1m℃ですからP5を用いた簡易計算でも問題ないことが分かります。続く2周期目は両者ともほぼ同じ計算を行いますので図2(b)の波形は線幅内で重なっています。
(同図のグラフが直線的なのは損失変化を生じた時刻のみで計算しているためです)

 一方、詳細損失について実際に温度変動を計算してみると1サイクル目、2サイクル目ともにターンオフ時に“+0.32℃”程度ですからスイッチング電源のパワーデバイスの瞬時温度変動はかなり低いことが分かります。
 この結果は1μsの過渡熱抵抗が3.6×10-3℃/W程度まで小さくなることに起因し、瞬時に大電力を与えても温度はそれほど変動しないことにつながります。つまり浴槽にマッチ棒を落としても風呂が沸かないように、物体の温度を上げるためには電力(W=J/s)よりもエネルギー(J=W×s)が重要なのです。

 なお、過渡的にジャンクション温度が−5m℃程度を示しますがこれは冷却現象ではなく、定常温度上昇に対する変動です。

図2:損失波形の理想化と温度変化[クリックで拡大]

*物体に与えられたこのエネルギーは物体内では「熱エネルギー」の形ではなく、固体の原子では振動エネルギーや熱歪エネルギーの形で、また電子や流体の原子(分子)など動ける粒子の場合は運動エネルギーの形で物体内に保存されます。


実機の解析事例

 図2の理想化波形とは異なりますが手元にあった実際のスイッチング電源の動作波形を図3に示します。図3(a)はスイッチング波形の全体像、図3(b)は電圧、電流波形のクロスオーバー部を拡大したものです。
 この図3(b)の波形画像をデジタルデータに変換して読み込み、電力計算、温度計算を行ったものが図4です。
 図4からターンオン時損失は1300WP弱、ターンオフ時損失は1700WP程度であることが分かります。寄生容量に流れるドレイン電流の振動成分を拾っているので遮断時の損失が0ではなく有限値になっていますがスイッチング素子の過渡的ジャンクション温度変動は最大でも1℃未満であることが分かります。
 結論として図2図4の解析結果から分かるようにスイッチング動作の場合には瞬時温度変動は極めて小さく、温度上昇の主成分は定常的な平均損失によるものと考えて良いかと思います。

図3:解析対象の実機波形Vds=100V/div Id=2A/div[クリックで拡大]
図4:実機解析波形例[クリックで拡大]
注)損失を1ドット単位で計算しているので温度変化は曲線になっています

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