さて1982年に発表された80186/80188は、8086と同じくHMOS(Intel独自のNMOS)での製造であったが、HMOS版の8086が4/5/8/10MHz駆動で、特に10MHz駆動の8086-1はちょっと市場投入が遅れたのに対し、80186/80188は最初から8/10MHz版が投入されている。また一部の命令がMicrocodeで処理されている関係で、最大で8086/8088比で30%程度高速に実行できる命令もあった。
これに続き、1987年にはCMOSプロセスを利用した第2世代の80C186/80C188が発表。最大20MHz品が追加されたが、消費電力は初代に比べて4分の1に削減されたとする。
1990年には、Modular Coreと呼ばれる考え方を導入した80C186EB/80C188EBファミリーが投入される。CPUコアはCMOSのスタティック回路として再設計され、プロセスもCHMOS IV(1μm CMOS)に変更。さらに周辺回路の変更が行われた。1991年にはこれに加え、80C186XL/80C188XL、80C186EA/80C188EAおよび、80C186EC/80C188ECの3つのファミリーが追加された。ここで
となっている。このあたりをまとめたのが図10である。
図10:1995年版の"80C186XL/80C188XL Microprocessor User's Manual"より抜粋。EB/ECはもう殆どMCUに近い構成だが、頑としてMicroprocessorの枠を超えなかったのはMCUとしては既に「8051」があったからかもしれない。ちなみに当然セカンドソース契約も結んでおり、AMD、富士通、Siemensから互換品がリリースされている。あと、NECのV20/V30が80186/80188互換命令をサポートしている(が完全互換というわけではなく、あくまでも一部の命令にすぎない)とか、台湾RDCは現在も80C186/80C188互換の16bit RISC MCUのラインアップをそろえている)(図11)。古い話だとVAutomation(2002年にARC internationalが買収)が開発した80186互換のV186やその後継のTurbo186 IP coreは、PixelworksのPW166BやZoranのZR36762PQC、Genesis gm1601などさまざまなコントローラーに採用された。特にPixelworksのPW166Bは80MHz駆動が可能になっていた。
IPベースで言えばVAutomation以外に台湾iWave SystemsはiW-80186ECという80C186EC互換CPU IPを提供している。2009年にはポーランドのEvatronix SAが、やはりC80186ECという名前で80C186EC互換IPの提供を発表した(その前年には80C186XL互換のC80186XLを発表した)。他にHT-LabのHTL80186とかCASTのC80186EC、ウクライナUnicore SystemsのVm86などさまざまなIPが提供されていた。あとOpen SourceとしてFPGAベースでも利用できる80186互換コアが公開されている。
Intel自身は2007年9月28日をもって出荷を完了したが、実はRochester Electronicsが現在も供給を行っている(例えばこちら)というのは「偽物じゃないの!? EOL品再生産の裏側」でも説明がある通り。パーソナルコンピュータ向けとしては国内だと富士通のFM-16β、海外だとTandy 2000とかHP 100LX/200LX、UNISYS ICONなどそれほど採用例は多くなく、トータルの出荷数も8086/8088に遠く及ばない。たださまざまな組み込み用途向けに、それこそ今も使われている恐ろしく息の長い製品となっている。
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