数年前まで、ファウンドリはウェーハ/各層の欠陥密度や歩留りデータ、リソグラフィモデルなどの機密情報をEDAベンダーに提供したがらなかった。特に新興ベンダーに対しては警戒していた。それらの重要データが競合の手に渡ることを恐れていたからだ。しかしTSMC社、UMC社、CISアライアンスの3ファウンドリは少し前から、その開示範囲に差はあるものの、これらのデータを積極的にEDAベンダーに提供している。
TSMC社でデザインサービスマーケティング部門シニアディレクタを務めるEd Wan氏によれば、TSMC社は2年前に65nmを使ったICチップとEDA/DFMツールの開発を成功させるにはEDAベンダーとのデータ共有が不可欠であることに気付いたという。2006年にTSMC社はDDK(DFM data kit)とDUF(DFM unified format)を公開した。この中には、LPC(lithography process check)、CMP(chemical mechanical polishing)解析、CAA(critical area analysis)のデータが含まれている。この共通フォーマットを作成することで、TSMC社は既存のEDAベンダーとより緊密に協力し合えるだけでなく、EDA市場に新規参入してくるベンダーに対し、TSMC社の65nmフローに適合したツールを開発するための基本データを提供することができる。
UMCは共通データフォーマットを作成していないが、EDAベンダーと一部の顧客には歩留りデータを提供している。「当社では絶対的な歩留りデータを使用していないため、相対的な歩留り情報を提供している」と、UMC社でシステム/アーキテクチャサポート部門のSoCチーフアーキテクトを務めるPatric Lin氏はいう。「リソグラフィモデルを必要としないツールベンダーもあるが、必要とする企業にはデータを暗号化して提供している。当社では、他社のようにフォーマットを重要なものとは考えていない。当社が望むことは、必要なツールができるだけ早く顧客に提供されることだ。顧客にソリューションを提供することが重要なのであって、データフォーマットを提供することに意味はない。ただし、業界で標準フォーマットを策定するなら、喜んで参加する」と同氏は語る。
Chartered社、IBM社、Samsung社がCISアライアンスを設立した理由は、3社が所有するすべての65nm対応の工場が同じプロセスルールとデータフォーマットに基づいて稼働できるようにするためだ。同アライアンスでは、暗号化された重要な製造用のデータを含むモデルキットを作成している。これらのモデルキットに含まれる製造用のデータは、CAA、形状シミュレーション、CMPシミュレーションに使用されるものだ。
TSMC社、UMC社、CISアライアンスは、それぞれの65nmフローを作成するに当たってEDA業界のビッグ4(Cadence社、Synopsys社、Mentor社、Magma社)らと密接に協力し合っている。これら4社のDFMツールを使うためだけでなく、4社のフローを新しいプロセスに合わせてもらうためだ。これら3つのファウンドリのすべてが、EDAベンダー16社から提供されているDFM製品を評価して、顧客向けのDFMフローの策定に取り組んでいる。ただしどのツールベンダーと提携するかは、3つのファウンドリでそれぞれ違っている。概して、UMC社は自社の顧客が希望するツールベンダーと提携している。TSMC社は従来通り、Cadence社、Synopsys社、あるいはMagma社のフローにTSMC社のプロセスをどのように反映させるかを示した65nmリファレンスフローを作成している。そして、これらEDAベンダー3社のフローでTSMC社が推奨する機能が提供されない場合に備え、TSMC社のリファレンスフローにはほかの中小企業のツールも組み込まれている。TSMC社は2006年にDFM準拠プログラムを策定した。このプログラムで提供されるDDKに基づき、新興ベンダーは新しいDFM技術を開発することもできる。CISアライアンスは、ファウンドリ共通のフォーマットを策定したかったこともあり、市販のEDAツールを徹底的に調査して、顧客には同アライアンスが推奨するベンダーのツールを使用することを強く勧めている。
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