上述したように、PCIeはネットワーク機器の処理プレーンに適用するには問題があり、独自のバスアーキテクチャに取って代わるにはやや能力不足である。しかし、コスト上の問題から独自のバスアーキテクチャを別のものに置き換える必要があるとしたらどうすればよいのか。その場合、PCIe以外の候補としてイーサーネットが挙げられる。
イーサーネットも大容量で低コストな技術の代表である。加えて、複数のホストから共有エンドポイントへの通信を実現する標準的な実装方法でもある。データ処理速度も速く、米Fulcrum Microsystems社からは10Gビット/秒のスイッチデバイスが販売されている。また、イーサーネットからほかの通信プロトコルへのブリッジも提供されており、複数プロトコルを取り扱うシステムの設計も簡便となっている。以上のことから、ネットワークシステムベンダーは、制御プレーンとしてPCIeを、処理プレーンとしてイーサーネットを利用したDSLAM(digital subscriber line access multiplexers:デジタル加入者線用の交換機)などのアクセス層システムを設計し始めている。
しかし、PCIeを支持する立場の人は経済性と性能上の利点から、いずれは処理プレーンにおいてもPCIeが独自アーキテクチャと同様にイーサーネットを押しやってしまうだろうと主張する。現在、イーサーネットデバイスで生産台数の多いものは1Gビット/秒の製品であるが、PCIeでは現時点で8レーンおよび16レーンのデバイスが提供されており、最大32Gバイト/秒のデータ転送を実現する製品が、パソコンにおけるグラフィックスの要求に対応するものとして各ベンダーによって開発されている。PCIeの支持者は、その技術がすぐにスイッチやブリッジ、そのほかのエンドポイント周辺機器にも適用されるようになるだろうと予測している。
すでに市場に出ているPCIeデバイスの大半は、パソコンやグラフィックス用途専用のものだが、スイッチやブリッジも提供されている。IDT社、NEC、米Texas Instruments社、PLX Technology社などの企業は、透過型と非透過型の両方のスイッチを提供しており、その種類も2ポート/4レーンから12ポート/48レーンのデバイスまで広範囲にわたる。PCIeに対応したブリッジも上記の企業や米AMCC社、Intel社などから提供されており、PCI、PCI-X、イーサーネットとPCIeを上流/下流方向の双方向で接続することを可能にする(図4)。
カスタム設計にもPCIeが利用可能な領域があり、米Lattice Semiconductor社が提供するFPGAデバイスは、米Northwest Logic社製PCIeインターフェースコアと米Genesys Logic社製PHY(物理)層コンポーネントを利用している。NECからも、コントローラやPHYコアなどのPCIeコアが提供されている。加えて、EDAベンダーもカスタムPCIe市場に進出し始めており、米Cadence社からはIP(intellectual property)とPCIe設計用の検証ツールが提供されている。
市場ではまだパソコンやグラフィックス用途向けが主流であり、ネットワーク機器におけるPCIeの利用はまだ初期段階にある。しかし、アーキテクチャの面からも性能面からもPCIeがネットワーク通信制御の分野に入り込む余地はあるといえる。プロセッサを中心とするパソコンと、データを中心とするネットワーク通信システムの要求の違いによるアーキテクチャ上の不整合は、PCI-SIGや個々の企業の努力によって改善されていくと予想される。PCIeはネットワークシステムでの主流とはならないかもしれないが、市場において重要な役割を担う可能性は十分にある。
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