例えば、電気自動車で用いる大型電池として充電型のリチウムイオン電池を使用する場合、この用途/使用法に特有な問題が生じる。まず、この用途では電源ラインの電圧が100Vを超えることになり、過充電/過放電保護のために標準的なICを使用することができない。また、リチウムイオン電池のセルを直列に多数接続することになるので、セルごとの自己放電特性のわずかな違いによって、個々に充電レベルが異なってしまう。そのため、セルごとの充電レベルが均等になるようにバランスをとることが要求される。そこで、本稿では大型/高電圧リチウムイオン電池を保護しつつ充電レベルのバランスをとるための方策を紹介する。
図1に示したのは直列接続された複数のリチウムイオン電池のうち、1つのセルの電圧を監視する回路である。システムとしては別に監視指令用ホストがあり、この回路と通信を行う。ホストのディスプレイによって各セルの電圧をモニターし、そのモニター結果から「問題あり」と判定された場合には保護スイッチをオフにし、問題のあるセルを特定してバランスをとるためのタイミングを決める。この方式であれば、高電圧を得るために電池全体を構成するセルの数を増やしたい場合でも容易に対処することができる。
1つのセルの電圧は3V〜4.2Vの範囲にあるので、図1のマイクロコントローラIC1(米Microchip Technology社の「PIC16LF88」)の電源としてそれを直接使用できる。回路全体としての待機電流は1μA以下であり、待機時の電池の自己放電は少なくて済む。ヒューズF1とツェナーダイオードD2は保護用の素子であり、監視するセルが高電圧を発したときに回路を保護する。フォトカプラーIC3(米Fairchild Semiconductor社の「MOCD207M」)は、各セル用のモニター回路間を接続する9600ボーの非同期シリアルバスに対する入出力回路となる。セルの選択信号は監視指令用ホストから送出され、各セルを順次選択するために使用される。IC3の電流伝達比は明確に規定されているため、電源電圧の許容変動範囲を容易に決定できる。IC3の待機電流はほぼゼロだが、これを動作状態に復帰させてモニター機能を活性化するためには、ホストからシリアルバス経由で1つのパルスを送るだけでよい。
セル電圧は基準電圧源D1(「LM4050」)からの固定出力との差分として計測される。この差分はオペアンプIC2により増幅されて、マイクロコントローラIC1に内蔵された10ビットのA-Dコンバータに入り、分解能3mV相当で計測が行われる。基準電圧源やオペアンプ回路に起因して計測結果に誤差が生じるが、これはソフトウエアによって補正する。これらの誤差要因は温度の変化からも影響を受ける。抵抗R7、R8として温度係数が25ppm/℃のものを使用したところ、電圧の計測精度は0〜50℃に対して±7.5mVとなった。基準電圧源D1に対して、マイクロコントローラIC1の端子RB1からのバイアスを重畳することで、所要条件になったときのみ監視回路が動作するように構成することができる。これと同様にIC1の端子からの出力によって数個のサーミスタをバイアスし、それを利用してセルの温度を計測することが可能である。
この監視回路は、監視の対象となるセルが過剰に充電されている場合には、Q1をオンにしてセルからR10経由で200mAのシャント電流を流し、充電レベルのバランスをとる。このシャント電流は電池の最大放電電流である12Aに比べると少ないが、直列接続された各セルの自己放電率のばらつきを均等化し、バランスをとるには十分なレベルである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.