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混迷深まるHDビデオの無線伝送乱立する規格と技術の壁で(4/5 ページ)

» 2011年01月01日 00時00分 公開
[Brian Dipert,EDN]

超広帯域の利用

 AMIMON社の幹部らは、5GHzのISM帯で同社の目的を達成することができると考えている。それに対し、ほかの周波数のほうがマルチメディアの要件に適していると考えるメーカーも存在する。実際、WiMediaアライアンスはUWBの無線通信方式を採用した。UWBは、3.1GHz〜10.6GHzの帯域を利用する(帯域は、地域の規制によってやや異なる)。UWBでは、同じ周波数帯域に存在するほかのシステムに配慮することを目指しているが、UWBの送信機を追加することで生じるバックグラウンドの広帯域ノイズが、最終的には、従来から存在する狭帯域/搬送波システムに干渉する可能性がある。UWBの推進派は、「最大伝送速度は480Mbpsで、最大伝送距離は3m。伝送速度が110Mbpsならば、最大伝送距離は10mになる」と、常に主張している。

 「WiMedia」と「Wireless USB」はどちらもUWBの技術だが、これら2つが同じものであると誤解されている場合が多い。米Alereon社の通信/ビジネス開発担当シニアディレクタを務めるMike Krell氏は、「WiMediaは、プロトコルに依存しない、標準化されたUWBである。一方のWireless USBは、UWBを用いてUSBを無線化する技術だ。上位では、プロプライエタリなプロトコルをはじめ、TCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)、Bluetoothといったほかのプロトコルと共存することも可能になっている」と説明する。

 この数年間でWiMedia機器に対するテストが数多く実施されたが、残念ながら、どれも実際の速度は宣伝されているよりも遅いという結論に至っている。また、さまざまな実装方法の推進派の間で行われた標準化を巡る論争が長期化した上に、誰かが満足するような解決には至らなかった。いくつかの新興企業は廃業へと追いやられ、結局、UWB技術が市場に受け入れられることはなかったのである。

 このような状況から、UWBは現在、主にビットレートの低いWireless USBを使用する、BluetoothなどのRFおよび赤外線に競合する手法として位置付けられている。その適用先は、コンピュータのキーボードやマウス、デジタルスチルカメラ、低解像度ウェブカムなど、速度があまり重要ではないとされる用途だ。それでも、WiMediaの推進派の活動が衰えることはない。Alereon社や台湾Realtek社、イスラエルWisair社などが提供するチップセットをベースとしたマルチメディアストリーミング機器がいくつか世に出ている。

 IEEE 802.15.3aの規格策定においては、MB-OFDM(マルチバンド直交周波数分割多重)方式とDS(Direct Sequence)-UWB方式という2つの変調方式が候補として存在していた。WiMediaは、そのMB-OFDM方式から派生したものである。MB-OFDM方式と、QPSK(4位相偏移変調)または16値QAM(直交位相振幅変調)を利用する。

 一方、米Pulse〜LINK社が提唱する技術「CWave」は、同軸ケーブルおよび無線でHD(高品位)テレビの映像を伝送できるようにするものである。変調方式にはBPSK(2位相偏移変調)およびQPSKを利用しており、こちらはIEEE 802.15.3aのもう1つの候補であったDS-UWB方式に基づいている。CWaveの推進派は、「WiMediaよりもビットレートに対する伝送距離が長く、実装コストが低い」と主張しているが、CWaveもその競合技術も、市場に広く採用されるために必要な価格はまだ実現できていないことも認めている。

ミリ波帯の利用

 ビデオの非圧縮伝送が望まれる理由はいくつかある。まず、送信機における圧縮機能と、受信機側の復元エンジンが不要となるため、システムの実装コストが低下する。また、圧縮処理がなければ、伝送システムにおける全体的な遅延も小さくなる。米Microsoft社、MPEG(Motion Pictures Experts Group)、米On2 Technologies社(2009年8月に米Google社が買収)、米Sorenson Communications社などが開発したコーデックを介して消費者に届けられるビデオコンテンツは、すでに、損失の大きい圧縮が施されている*10)*11)。また、伝送によって画像の乱れが生じれば、画質はさらに低下する。

 そこで、抜本的な帯域の移動が必要であると判断した米SiBEAM社は、60GHzのミリ波帯を使用するWirelessHDを開発した。WirelessHDは免許が不要で、7GHz幅のチャンネルを採用し、現時点で4Gbpsのデータレートを実現している。なお同社は、「最大25Gbpsのビットレートが実現可能だ」と主張している。また、WirelessHDは、コンテンツアクセス制御のためにDTCP(Digital Transmission Content Protection)の暗号化をサポートする。WirelessHDは基本的には室内向けの手法であり、伝送距離は今のところ10m程度に限られている。前出の業界関係者A氏によると、「WirelessHDは、60GHzのIEEE 802.15.3c PAN(Personal Area Network)を使用する」という。現行世代のWirelessHDは、1.76GHzの帯域幅を用いており、変調方式にはOFDM、QPSK、および16値QAMを利用している。最大RF電力レベルは10W弱となっている。

 WirelessHDには指向性を調整できるアンテナアレイが必要となる。SiBEAM社は、36個(6×6)のアンテナのアレイ、すなわち36個の送信チェーンと36個の受信チェーンについてデモンストレーションを行った。これを実現するには、36個のLNA(低ノイズアンプ)を36個のVGA(可変ゲインアンプ)に接続する必要がある。A氏は、「36個は多すぎる。16個(4×4)のアレイを使えばほとんど同程度の効果を実現できるからだ。また16個なら複雑さは半減する」と述べている。

 RF送信機では、OFDMを実現するために、分解能6ビット、4ギガサンプル/秒(GSPS)のD-Aコンバータが2つ必要である。1つのD-AコンバータがI(同相)チャンネル信号、もう1つのD-AコンバータがQ(直交)チャンネル信号を生成する。4GSPSというサンプリングレートは、ごくわずかなオーバーサンプリングで1.76GHzの帯域幅を実現するために必要となるものだ。A氏によると、「アンテナ、LNA、VGAで構成される各RF受信機/アンテナチェーンにおいては、それぞれのチェーンに対応するアナログ相関器(Correlator)に到達するまでは、独立に処理を行う必要がある」と述べる。相関器の出力は、分解能が6ビットでサンプリングレートが4GSPSのI/Qチャンネル用の2つのA-Dコンバータに接続される。

 次にA氏は、デジタルベースバンド処理について、送信機側から説明してくれた。各D-Aコンバータは、24Gbpsのベースバンドのデータを必要とする。D-Aコンバータは2つあり、48Gbpsのデジタルデータを用いることになる。この要件を満たすには、非常に高い性能が要求される。その上、65nmや45nmの製造プロセスを採用したとしても、ICの消費電力が非常に多くなってしまう。16値QAMで符号化されたOFDMを受信する伝送先では、そのI/Q信号を復元し、48GSPSのデータを得る。2つのA-Dコンバータがこのデータを生成し、デジタルベースバンドサブシステムに供給する。A-Dコンバータ、D-Aコンバータ、ベースバンド回路、MAC(Media Access Controller)を組み合わせると、60GHzのシステムの消費電力は簡単に30Wを超えてしまう計算になる。

 「ある意味で、WirelessHDは、WiMediaと同じ道をたどっているとも言える」とA氏は述べる。「Wi-Fi、Homeplug、MoCA(Multimedia over Coax Alliance)といった狭帯域の規格には、OFDMは最適であると思う。OFDMがこれらの用途に向いているのは、使用するRF帯域幅が実質的に数十MHzだからだ。求められるサンプリングレートが低いので、A-DコンバータとD-Aコンバータとして10ビット以上のものを使用できる」と同氏は語る。A-DコンバータとD-Aコンバータにおける1ビットは、6dBのダイナミックレンジに相当する。つまり、10ビットは60dBに相当する。一方、WiMediaとWirelessHDは、ともに数百MHzの帯域幅をサポートするため、分解能の低いA-D/D-Aコンバータしか使用できない。例えば6ビットのA-D/D-Aコンバータを使用したとすると、36dB以上のダイナミックレンジは得られないということだ。受信機で正しく信号を復元するために20dB以上のS/N比(信号対雑音比)を必要とするQAMを使用すると、信号を伝送するリンクにはほとんどマージンがなく、ぜい弱なリンクとなってしまう。この問題は、送信機の電力に限界があるWiMediaにおいては、伝送距離と性能が抑えられてしまう要因となる。また、WirelessHDにおいて、60GHzにおけるダイナミックレンジの低さと減衰の大きさを補償するために10WのRF電力が必要になるのも、同じ理由からである。


脚注

※10…Dipert, Brian, "Video characterization creates hands-on headaches," EDN, July 25, 2002

※11…Dipert, Brian, "Video characterization creates hands-on headaches, part 2," EDN, Aug 8, 2002


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