互換式LED照明のフライバックLEDドライバに求められる機能として最近注目されているのが、白熱電球の調光に広く利用されているトライアック(双方向サイリスタ)を用いた調光器への対応である。
トライアックとは、交流電源によって双方向に電流を流すことが可能なスイッチング素子である。トライアック調光器では、入力されるAC電圧波形の途中でトライアックをオン状態にする(トリガーを与える)と、AC電圧の波形が0Vになるまでオン状態が続くという動作を利用している。AC電圧波形の中でトリガーを与える位相を変更することによって明るさを調節できるわけだ。トライアック調光器は、光源に入力した電力の実効値で明るさが決まる白熱電球に最適なので、一般家庭からオフィスビル、工場に至るまで広く導入されている。
しかし、互換式LED照明の場合、フライバックLEDドライバなどのコンバータに入力したAC電力をDC電圧/電流に変換してからLED素子に出力している。このため、トライアック調光器で明るさを調節しようとすると、トライアックのトリガーを与えるタイミングが不規則になって輝度に揺らぎ(フリッカ)が生じてしまう。
トライアック調光器に対応した互換式LED照明を実現するには、トライアック調光器の位相情報を反映するための回路をフライバックLEDドライバに追加する必要がある。さらに、LED電流の出力とトライアック調光器の設定を合わせ込むような機能も必要になる。互換式LED照明に用いられる、最も基本的な構成の調光回路では、DC電源ラインの電圧レベルを利用して、調光器の動作に対応するようにLED電流を増減する。しかしこの場合、調光器で調節できるはずの明るさの範囲のうち、限られた領域でしか調光できないという問題がある。
実際のところ、白熱電球用に開発されたトライアック調光器に合わせてフライバックLEDドライバの機能を拡張するよりも、フライバックLEDドライバと連係して動作する優れた調光器を新たに開発する方が有意義だという考え方もある。しかし、市場の要求はそうなっていない。このため、互換式LED照明のフライバックLEDドライバに、トライアック調光器に対応するための回路が追加されるようになっている。これらの付加回路では、トライアック調光器の位相情報を検出してDC制御電圧に変換し、そのDC電圧に応じて出力電流が調整される。ただし、このような回路構成では、2次側回路でLED電圧とLED電流を検出してLED電流を安定化する手法を利用する必要があるので、フォトアイソレータが必要になって部品点数が増加する。このため、トライアック調光器に対応する互換式LED照明の価格は30米ドル以上と高価である。次世代のトライアック調光器に対応するフライバックLEDドライバは、より高機能な制御ICを利用することにより、フォトアイソレータが不要な1次側回路でLED電流を安定化する手法を適用できるようになっているはずだ。
互換式LED照明で最も広く利用されるようになっているのは、白熱電球や電球型蛍光灯を置き換えるLED電球である。その一方で、直管式の蛍光灯を代替するLED照明(LED蛍光灯)にも注目が集まっている。フライバックLEDドライバは、このLED蛍光灯にも利用されているのだ。
LED蛍光灯は、LED電球と同様に、通常の直管式蛍光灯を置き換えることにより、単位電力当りの明るさを高めるとともに、寿命を伸ばせることがメリットとなっている。図4に示したのは、定格電力が24WのLED蛍光灯である。これは、定格電力が32WのT8型蛍光灯(一般的な直管式蛍光灯)と互換性がある。この種の製品でも、フライバックLEDドライバは、低コストの駆動回路として最善の選択肢であり、安全性および動作面での要求にも適合する。
直管式蛍光灯の調光器としては、0〜10V信号(米国で蛍光灯の調光に利用されている信号)に対応したアナログ調光器や、欧州を中心に普及しているDALI(Digital Addressable Lighting Interface)のような先進的なデジタル調光システムを利用することが多い。これらは、LED素子の点灯時間と消灯時間を制御することで明るさを調節するPWM(パルス幅変調)調光や、可変抵抗器を用いるリニア調光に対応している。このため、LED蛍光灯のフライバックLEDドライバには、トライアック調光器に対応するための回路を追加する必要はない。
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