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水晶置き換え狙うMEMS発振器に新提案、圧電方式で「低コスト」に磨きIDT 4Mシリーズ

一般水晶発振器(SPXO)の置き換えを狙ったMEMS発振器に、新たな提案である。IDTの「4Mシリーズ」は、振動子に独自の圧電MEMS技術を使うことで信頼性を高めた発振器だ。SPXOに比べて部品価格が大幅に低い上に、信頼性が高いため、ユーザーである機器メーカーの総コストを低減できるという。

» 2012年05月16日 13時15分 公開
[薩川格広,EDN Japan]

 米国のミックスドシグナルICベンダーであるIDT(Integrated Device Technology)は2012年5月、MEMS技術を使う新型の発振器「4Mシリーズ」を発表した。通信機器や消費者向け機器、産業機器などに使われる一般水晶発振器(SPXO)の置き換えを狙う。市場で主流のSPXOに対して、パッケージの端子互換性を確保した他、発振器としての基本特性について同等以上を達成したと主張する。水晶発振器に比べて、部品価格を「1000個購入時に半分以下、10万個購入時なら3割程度」(同社)に抑えられる上に、工場出荷後の不良率が極めて低く、品質の信頼性が高いため、ユーザーである機器メーカーの総コストを低減できると説明する。

図1 IDTのMEMS発振器「4Mシリーズ」 出典:IDT(クリックで画像を拡大)

 4Mシリーズは、圧電(ピエゾ)効果を利用する同社独自のMEMS振動子を使った発振器である。この振動子の他、駆動回路や出力周波数設定用のPLL回路を集積したASICと、出力バッファICを組み合わせてプラスチックパッケージに封止したマルチチップ品だ。出力周波数は50〜625MHzの範囲でユーザーが指定可能だ。周波数誤差は±50ppm、位相ジッタは1ps以下(12k〜20MHzのrmsジッタ)に抑えている。

 パッケージについては、前述の通り、市場で主流のSPXOが採用するセラミックパッケージとの互換性を確保した。具体的には6端子で7050サイズ(7.0×5.0mm)と5032サイズ(5.0×3.2mm)の2品種を提供する。出力形式については、LVDSとLVPECLの2タイプを用意した。電源電圧は2.5Vもしくは3.3V。消費電流は最大95mAである。動作温度範囲は−40〜+85℃を保証する。既にエンジニアリングサンプル品の出荷を始めており、2012年第3四半期(7〜9月)に量産を開始する予定だ。

図2図3 左の図は「4Mシリーズ」の主な特性。右の図はパッケージ。主要ベンダーの水晶発振器のパッケージと端子互換性を確保している。 出典:IDT(クリックで画像を拡大)

圧電MEMS発振器の商用化は「世界初」

 水晶発振器の置き換えを狙うMEMS発振器のベンダーはIDTだけではない。米国のSiTimeをはじめとする各社が2000年代の後半から製品化しており、既にさまざまな機器に採用が進んでいる。そうした競合他社に対して、IDTが強みとして挙げるのが、振動子に適用するMEMS技術の違いだ。

 同社によると、他社が使うMEMS技術は、対向する2枚の平板電極に電荷をためて振動子を機械的に駆動する、静電容量方式である。この方式では、比較的大きな駆動エネルギーが必要になる他、平板電極の間にわずかな隙間があるので、量産時にそこにほこりが入り込んだり、機器に組み込んで使用している間に電極同士がくっついて離れなくなってしまうといった信頼性の課題があるという。

 これに対しIDTは、MEMS素子に貼り付けた圧電材料に生じる機械的な歪みを利用して振動を起こす、独自のピエゾ方式「pMEMS」を採用した。静電容量方式とは異なり隙間が存在しないため、上記のような課題が無く、信頼性を高められるという。ピエゾ方式のMEMS自体は他社で既に開発事例があるものの、「発振器に応用し、商用化したのは今回が世界で初めてだ」(同社)と主張している。

図4 pMEMS技術で製造するIDTの振動子である。 出典:IDT(クリックで画像を拡大)

 なお同社は2011年11月に、このpMEMS技術を適用したMEMS発振器の開発について発表していた

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