現在のシグマ・デルタ型A/Dコンバータは、内部に1ビット・コンバータを使うことはまれで、数ビットのマルチ・ビット・コンバータ(例えば並列型A/D)を使うようになってきています。シグマ・デルタ型A/Dコンバータは高分解能のデバイス(12〜24ビット)を実現することが可能ですが、変換は常時動作していることが必要で、一部の例外を除いて変換するポイントを明確に指定することができません。ある信号区間の変換値が出力されます。
以上のメジャーなA/D変換方式以外にも、入力信号を別の信号、例えば周波数やパルス幅に変換する方法がありますが、ここでは取り上げません。各コンバータの特長を、以下に示します。
――A/Dコンバータ各方式の特長
並列型(フラッシュ型)A/Dコンバータ
入力容量が大きいため、駆動アンプに注意する
分解能は10ビットくらいまで
最も高速変換可能
逐次比較型(SAR型)A/Dコンバータ
比較的低ノイズで、高精度(高SN)変換が可能
通常は入力にサンプル・ホールド・アンプが必要
変換にはクロックとのパイプライン・ディレイはない
最も広く汎用的に使用されている
サブレンジング型(パイプライン型)A/Dコンバータ
SAR型より高速、並列型より高分解能
パイプライン・ディレイ(レイテンシ)がある
変換速度に最低限度がある、常時動作が必要
アナログ入力帯域が変換速度より広いものが多い
シグマ・デルタ型A/Dコンバータ
高ダイナミック・レンジ、低中速領域で多用
常時変換と積分回路のため、1ショット変換には向かない
同じ理由でマルチプレックスには向かない
内部動作のフィルター動作などをデジタル的に変換可能
A/Dコンバータの重要なD/C特性は、D/Aコンバータと同様に伝達関数のプロットから説明されます。D/Aコンバータと同じようにオフセット、ゲイン誤差は、後で補正することが可能です。しかしリニアリティは、その補正が困難です(不可能ではない)。
図6は縦軸と横軸がD/Aコンバータの場合と逆であることに注意してください。INLとDNLはD/Aコンバータの場合と同じように規定されますが、A/Dコンバータの場合DNLが大きくなると隣のコードを食いつぶし、あるコードが抜け落ちてしまうコード落ち(Missing Code)という現象が発生します(D/Aの場合は単調性)。
無限の分解能を持つアナログ信号を有限の分解能のデジタル信号に変換すると、元の信号とは異なった形になります。サンプリング(標本化)による折り返し(Aliasing)と、量子化によるノイズ(Quantization Noise)です。
折り返しは、ナイキスト周波数(サンプリング周波数の2分の1)ごとにその中にある信号が別のゾーンにコピーされる現象で、量子化ノイズはやはりナイキスト周波数に分散されるノイズです。折り返しは、時に別のナイキスト・ゾーンにある不要な信号をコピーして、必要な信号のナイキスト・ゾーンに移していきます。
これを避けるためにA/Dコンバータの入力、あるいはD/Aコンバータの出力にはアンチエリアス・フィルター(AAF)が必要とされます。分解能がNビットのコンバータ・システムでは、この量子化ノイズによるSN比は、6.02N+1.76(dB)と規定されます。
例えば12ビットでは、74dBになります。これが12ビットコンバータで到達できるSN比の理論的限界値です。D/Aも含めてコンバータの精度は、DC領域ではリニアリティ、AC領域ではSN比が性能評価基準として規定されています。逆にFFTなどでコンバータのSNを測定することができれば、結果からNを求めることができます。
これが有効ビット(ENOB)と呼ばれる仕様で、ENOB=(SN−1.76)/6.02という計算になります。リニアリティや変換速度と並んで、コンバータの最も重要なスペックの1つです。A/Dコンバータの場合、デジタル出力をFFT処理してSN比を測定します。このデータからは、そのほかに高調波ゆがみ率(THD)やSFDRという性能も規定されます。
A/Dコンバータ、あるいはD/Aコンバータ・システムでは、低周波数領域ではINLやDNLリニアリティとその安定度、AC信号領域ではSN比やENOB、SFDRなどがシステム仕様に最適になるように設計する必要があります。
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