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オペアンプを使ってVCAを線形化Design Ideas アナログ機能回路

オペアンプを用いてVCA(電圧制御アンプ)の利得を線形化するアイデアを紹介する。

» 2014年05月23日 12時50分 公開
[Mike Irwin,カナダ在住]

 FETはVCA(電圧制御アンプ)やアッテネーターなどによく用いられており、可変抵抗の役割を果たす。制御電圧を印加することにより、チャンネル抵抗と回路全体の利得を設定できる。しかし、個体差が大きいため、選別を行って使用する場合が多い。

 図1の回路は、整合のとれた2つのFETを使ってマスター・スレーブ・サーボ技術を実現した可変利得のVCAである。回路全体の利得は、印加する制御電圧VCの線形関数になる。図1の回路はVC=0のときに最小の利得が得られる。VCの電圧を高くすると直線的に利得が増加する。この特性は、利得を制御する素子に1つのFETを用いる一般的な可変利得回路では得られない。

図1 FETのゲート電圧で利得を変更できるVCA
ダイナミック・レンジは−55〜0dBである。

 さらに図1の回路は、バイアスを外部から供給する必要がないため、FETの個体差を補うことができる。このためFETは厳しく選別しなくてもよい。

 この回路は、FETであるQ1Aのドレイン電圧VDSを低電圧(比較電圧VREF=50mVと同じ電圧)に保持する。このためFETは、ID‐VDS特性曲線における低い抵抗領域で動作する。

 オペアンプIC1Aは、Q1Aのゲート電圧VGSをサーボ制御し、Q1Aのドレイン電圧VDSをVREFに保つ。このとき、Q1Aは、IC1Bなどで構成したハウランド電流ソース回路*1)から電流を引き込む。ソース電流IDは、制御電圧VCと抵抗R5からID(mA)=VC/R5(kΩ)と計算される。チャンネル抵抗RDは、RD(kΩ)=VREF/ID=0.05/ID=0.05×R5/VCとなる。Q1Aに供給したVGSは、抵抗R12を通してFETのQ1Bにも印加する。デュアルFETのQ1には、個体差の小さいFETを2つ収めているため、Q1AとQ1Bのチャンネル抵抗RDは同じだと考えてよい。

*1)負荷の値に関係なく定電流を供給する回路。

 VCを0Vから5Vに変化させると、VGSはVP(この電圧は「2N3958」をQ1に用いた場合に約−1.7V)から約370mVになる。なお、ショットキー・ダイオードD1は、ゲート‐ソース間の保護素子として挿入した。

 オペアンプIC2は可変利得の非反転アンプである。従って、Q1BのRDと抵抗R9によってIC2の利得が決まる。すなわち、利得=1+R9/RD=1+R9/(VREF×R5/VC)となる。IC2の利得は1+R9/R0のとき最大になる。ここで、R0はQ1Bのチャンネル抵抗の最小値である。2N3958では、VGS=0Vのときに約450Ω。利得の最大値は、FETがオフ(VGS=VPINCHOFF)のときに1である。

 この回路は、オーディオ入力信号を10mVPP以下に減衰させるアッテネーターを備えている。このアッテネーターは、FETのひずみを最小にするために導入した。さらに、IC2の出力に対してクリッピング電圧を設定する役割も果たす。抵抗R13とコンデンサーC5、抵抗R12を組み合わせたことで、高電圧の入力信号におけるひずみを低減する。

図2 VCAで変調したオーディオ出力の波形
VCに0V〜4Vの三角波を入力して、500MHzの正弦波を変調した。正弦波は、オーディオ入力端子に入力した。下側がVCの波形、上側がオーディオ出力の波形である。

 図1の部品パラメーターでは、VCを0Vから5Vまで変化させると、利得は−55dBから0dBまで直線的に増えていく。この回路には、6VPPのオーディオ信号を入力できる。図2は、オーディオ入力端子に入力した500MHzの正弦波を変調した結果である。

 最高の性能を得るためには、IC1には「OP-290」のようなオフセット電圧が低く、入力電流が小さいオペアンプを用いる必要がある。IC2には「NE5534」のようなGB(利得帯域幅)積が高く雑音の小さいオペアンプを使う。利得が小さくても構わない場合は、「LF353」や「LF351」のような低価格品で十分である。

 この回路はIC1にOP-290、IC2に「TL031」を使えば、±5V電源(抵抗R1は100kΩに替える)で動作する。このときの最大消費電流は0.33mAと小さい。


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※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事の中から200本を厳選し、5つのカテゴリに分けて収録した。

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