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アルミ電解コンデンサー(3)―― 化成処理と巻回中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(36)(3/3 ページ)

» 2019年10月29日 11時00分 公開
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素体巻回

 必要な幅に裁断された電極箔は仕様に応じて所定の長さに切断し、引出しリード線を接続した後に「陽極箔+電解紙+陰極箔+電解紙」の組み合わせで中芯に巻回します。小型のものでは電解紙を2〜3回空巻きして中芯の代用にします。
 図4(a)に概略図、図4(b)に実際の外観を示しますが黒い部分が電極箔、その陰に白い電解紙が見えて電極箔に対してスペースが確保されていることが見えます。

図4:素体巻回

 電解紙は植物繊維であるセルロースを主成分とした電解コンデンサー専用に製造された特殊な紙であり、陽極箔と陰極箔が接触しないように空隙を確保し、加えて電解液を保持する役目を持っています。
 そのためには均一な厚さ、密度で抄(す)かれていて吸水性、引張り強さなどの優れたものが必要です。

図5:電解紙

 電解紙の主原料はクラフト紙の場合は強度の観点から針葉樹の木材繊維、マニラ紙の場合は植物繊維としては最も強じんなマニラ麻の繊維が用いられます。電解液を含侵した電解紙は感触的にはウエットテッシュに似ています。

図6:リード端子

【卷回作業】
 切断された電極箔に引き出し端子をあらかじめカシメで取り付けた後に巻回します。
 リード線タイプのものは線材の一部をプレスで平板化したリード線が、基板自立型(スナップイン型)はリード板タイプの端子が使用されます。これらの端子は封止ゴムとの接触部分に化成処理を施して電解液の漏れを防止するようになっています。

【最外層の陰極箔と陽極箔】
 図3の断面図から分かるようにアルミ電解コンデンサーの箔は陽極箔と陰極箔が交互に並びますので箔の切断長さによっては最外層に図7(a)の陽極箔が来る場合と、図7(b)の陰極箔が来る場合があります。

図7:アルミ箔の最終外層の位置関係

 ラジアル形*4の場合にはアルミ缶はどの端子とも接続されていませんので図7(a)の最外層が陽極箔の場合には容量の一部が電解液を介してアルミ缶と接続された状態になります。
 この時にアルミ缶に高周波電位や(+)リード以上の電位を持つ他の電子部品が接触する*5と条件によっては局所的に電解液に過大電流が流れて発熱し、安全弁が動作する場合があります。この時に放出される電解液は導電性のために安全規格の試験所や試験結果によっては不合格になる場合があります。
 また図7(b)に示す最外層が陰極箔の場合でも接触電位の極性によっては再化成現象が発生し化成ガスによって図7(a)と同じく安全弁が動作する場合があります。

 このように最外層の条件によって異常試験の結果が異なってきますので仕様書には最終外層を明記してもらう必要があります。また酸化膜への曲げストレス低減のため陽極箔は最小巻き取り寸法を規定してもらう必要があります。

*4:アキシャル形では(ー)リードはアルミ缶に接続されています。
*5:缶表面の熱収縮チューブは多孔性のため絶縁物とは見なされませんし、はんだ付け時の熱収縮によって缶底部はむき出しになる場合があります。

 今回はアルミ酸化膜の生成から素子の巻回までを説明しました。次回は素子の組み立てや電解液の含侵、再化成(エージング)について説明します。


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執筆者プロフィール

加藤 博二(かとう ひろじ)

1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。


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