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5Gをさらに強化する「Release 16」、その新たな機能とは2020年7月に最終版が公開(3/3 ページ)

» 2021年04月27日 13時00分 公開
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垂直方向の拡大

 これまで検討してきた機能強化や特長は、容量の増加、干渉の軽減、UEの効率化をもたらすものですが、Rel-16はバーティカルに拡張するための機能も提供しています。

 まず、Rel-16では、超高信頼性低遅延通信(URLLC)の機能が大幅に強化されています。Rel-15では、その当時にあった既知のユースケースに基づき、URLLCには基本的なサポートしか提供されませんでした。しかし、工場の自動化や交通機関といった新たなユースケースが登場し、Rel-15では実現できない低遅延と高信頼性が求められるようになっています。

 Rel-16では、仕様全体で新機能や改善点が導入され、こうした新しいユースケースの実現が可能になります。物理層の観点から挙げられる主要な強化点は、拡張モバイルブロードバンド(eMBB)およびURLLCトラフィックの優先順位付けです。

 Rel-16では、UE内およびUE間優先順位付けなど、さまざまなタイプのトラフィックの優先順位を多重化することが可能になります。UE内でのeMBBとURLLCトラフィックの多重化を行う“UE内優先順位付け(Intra-UE prioritization)”では、UEが、同一のUE内で優先度がより高い伝送を優先し、優先度が低いトラフィックの伝送を停止します。

 それに対し、“UE間優先順位付け(Inter-UE prioritization)”では、異なるUE間でのeMBBとURLLCトラフィックの多重化が可能になります。ネットワークは、優先度の低いトラフィックを伝送する予定のUEに対して、その予定された伝送を停止するように指示できます。これにより、チャネルが解放されて、他のUEは干渉を受けずに優先度の高いトラフィックを送信することができます。eMBBトラフィックのスケジュール後に、低遅延で優先度の高いトラフィックが発生する可能性があるため、プリエンプションメカニズムにより、ネットワークは他のUEに配信されたUL許可をキャンセルできます。

図6:UE間優先順位付けでは、優先度の低いトラフィックがあるUEにその伝送を停止するように指示し、他のUEが優先度の高いトラフィックを伝送できるようにする
図7:UE内優先順位付けでは、優先度の低いトラフィックを伝送しているUEに、優先度の高いトラフィックを伝送するように切換を指示できる

進化するV2X

 自動車とあらゆるものを接続する通信、V2X(Vehicle to everything)は、Rel-16においてバーティカルに拡張するためのもう1つの重要な新機能です。リリース14(Rel-14)でサポートされ、Rel-15で強化されたV2Xは、Rel-16ではNR規格によってサポートされるようになり、隊列走行、リモートドライビング、センサー共有などの高度なユースケースに対応すべく、LTE V2Xを補完することを目標としています。

 NRでV2Xを実現するには、Sidelinkエアインタフェースを使用して、ネットワーク、クロス無線アクセステクノロジー(RAT)制御を介せずに、デバイス同士の通信を可能にする必要があります。これにより、LTEはNRの制御や(またこの逆も同様)、サービス品質(QoS)の管理、NRとLTE V2X間の互換性と共存の管理を行うことが可能になります。端的に言うと、このリリースでは、基本的なユースケースの場合、LTEとNRデバイス間の通信を容易にすること、NR V2Xの場合は高度なユースケースを可能にすることを目指しています。

 この目標を達成するために、Rel-16では、LTE Sidelinkがサポートしていない2つの新しい通信メカニズムを導入しています。これらのメカニズムは、意図した目的地に到達できる伝送が必要になる、高度なV2Xアプリケーションの実装に求められる制御を提供します。ユニキャスト通信では、デバイスが他のデバイスと通信することが可能になり、グループキャスト通信では、そのデバイスが既知のデバイスセットと通信することが可能になります。LTEのみ対応するブロードキャスト通信では、デバイスは他のデバイスとの通信が可能ですが、どのデバイスがそのデータ伝送を受信するかは制御することができませんでした。

図8:NR V2Xは、LTEがサポートするものに加えて、デバイスが通信するための2つの新しい方法を実現する

 このように、MIMO、NR-U、CLI、RIM、URLLC、V2Xは、5G規格の2回目のリリースで発表された重要な新機能であり、Rel-16が、これまでのセルラー規格の“2回目のリリース”とは異なることが分かるかと思います。

 今回のリリースには、細かい改善点が数多く含まれていますが、それ故、5Gが従来の通信を超えて拡大し、新たなアプリケーションの出現を可能にする規格となっているのです。

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