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半導体(2) ―― 実際に経験した不良と対策(I)中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(61)(1/3 ページ)

今回からは半導体製造工程の流れに従って筆者が経験した不良について説明していきます。

» 2021年12月20日 11時00分 公開

 前回は半導体製造工程の概要について説明しました。今回からは工程の流れに従って筆者が経験した不良について説明していきます。
 説明の中で「このような品質管理のレベルで大丈夫なのか?」などと思われる部分もあるかと思いますがこれら不良発生の教訓を踏まえて今の日本の品質管理体制があると考えてください。したがって今日時点で半導体メーカーの工場を監査しても本稿で説明するような内容の問題が発生する可能性は見当らないはずです。新しい半導体の採用にあたって本稿での失敗事例を反映していただければよいかと思います。

前工程に関する不良

 拡散などの前工程の多くは設備が自動化されていることに加えて幾重にも設けられた検査工程でミスを検出できるように検査基準が設けられています。ですので前工程に起因する不良が市場まで流出することはあまり多くありません。
 しかし次のように人的ミスによって検査をすり抜けて流出する事例がまれにありました。

リニアICの拡散工程の検査ミス

 拡散工程の管理ミスで特性分布不良のロットが発生し納期問題が予測されたため納期対策として半導体メーカーの拡散検査工程で以下の処理を行いました。

  1. ICの出荷検査判定値と工程検査の判定値を比較
  2. 両者の間に十分なマージンがあったため拡散検査判定値を合格ラインに達するように変更
    動特性〜静特性の相関を無視)
  3. 不良ロット品を誤った値で再検査し、合格品(実際は不良品)をセットメーカーへ出荷

 その結果、セットメーカーでICの動特性に起因する特性不良が多発し生産工程が停止しました。

【対策】
 検査員、工程責任者、経営者に対して検査判定値決定までのプロセスを説明し、検査員教育のテキストに検査規格決定までのプロセスの資料を追加しました。

*リニアICの動特性は相関のあるDC検査で全数検査を行い、実際の動特性は抜き取り保証です。

拡散条件の不用意な変更

 セットにおいて特定のトランジスタが焼損する事故が発生しました。拡散パターンなどの調査の結果、異種混入ではなく損失を左右する特性曲線の様子が当該ロットと認定品とで相違していることが分かりました。また当該ロットはVceoの分布が3σを超えて高くなっていることも判明しました。

 当該トランジスタはカタログ商品でしたが実際には6割以上が特定の顧客に出荷されており、顧客要望によってカタログの電気仕様を満す範囲で耐圧が上がるように拡散条件を変更していました。その結果、特性曲線が劣化し焼損事故につながったものであることが判明しました。

【対策】
 大口顧客向け品番を一般品と分けて特別品番とし、カタログ品の拡散を通常に戻しました。加えて特性曲線を代用できる検査項目を完成品検査工程に追加しました。

*この事例からも分かるようにカタログの判定値だけが特性ではありません。拡散条件に左右される特性曲線も設計に使用する有益な特性値です。新規採用を決めた時の認定サンプルは必ず残すことをお勧めします。
 また現在はISO9000シリーズの導入によりこのような無断変更はありません。

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