発熱体である半導体の倒れ防止を兼ねて図5に示すようなt=0.5の鋼板にバーリング加工*を施したものをヒートシンクとし、この部材に樹脂モールド型の半導体をセルフタッピングネジで固定して使用していました。
ですが鋼板の肉厚がt=0.5と薄いために、
薄い板厚→突き出し長さ不足→切込みネジ山数と締め付けトルク不足
となって十分な締め付けトルクを確保することができませんでした。
対策として突き出し長さと締め付けトルクを確保するために下穴径を小さくしダレ(曲げR)を大きくしました。
ただし小さい下穴径のために電動ドライバーの切り込み初期トルク大を大きくしなければならず、加えてダレが大きくなったために取り付け面の平面度が確保できませんでした。
最終的には歪んだ面と大きな初期トルクによって締め付け完了時に過大な応力がネジ部の近傍に発生しモールド割れになりました。
*バーリング加工では突き出し時に材料を「しごく」ことで材料を延伸しますが肉厚は薄くなります。材料破断になりやすいので突き出し可能な長さは材厚と下穴径に左右されます。
【対策】
価格を重視した場合は特別なICなどを必要にしないために図7に示すバイポーラトランジスタを用いた正帰還形の簡易電源回路がよく用いられます。1975年前後のこの事例はバイポーラトランジスタのhfeが温度とともに低下することを見落としたために冬季に回路が起動しない不良になったものです。
(当時は半導体のような固体質の特性の温度変化はカタログ上のものとされ、実設計では重視されていませんでした)
製造仕様には部品調達の都合上、hfeのランクとして2ランク記入されていましたが半導体メーカーとの話し合いで1ランク指定でも問題ないとの了承を口頭で得ていました。このために低温評価を高hfe品でしか行わず、低hfe品の低温評価は未実施でした。
これらの要因が重なって低hfe品を使用した場合、低温時にhfeが低下して発振開始時に必要なループゲインを確保できていませんでした。
なお、バイポーラトランジスタはキャリア(電子又は正孔)の運動エネルギーが温度依存性を持ちます。低温ではキャリアの運動量が低下してベース層内でキャッチされやすくなるのでhfeとしては低下することになります。また、極端に温度が上がりすぎると熱擾乱(じょうらん)運動が強くなるのでキャリアの平均移動速度が遅くなりhfeとしてはやはり低下します。
【対策】
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
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