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ガリウム発見からGaNパワーIC商用化まで、GaN半導体の略史研究者はいかにして障壁を超えてきたか(2/2 ページ)

» 2023年08月16日 10時00分 公開
[Majeed AhmadEDN]
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フォトニクスの先へ

 2004年、日本のユーディナデバイス(現:住友電工デバイス・イノベーション)はGaNベースの高電子移動度トランジスタ(HEMT)をRFアプリケーション向けのデプリージョン型トランジスタとして発表した。このHEMT構造は、1975年に三村高志博士と彼のチームが世界で初めて書き記した現象に基づいていた。その後の1994年に、M. A. Khan氏のグループは著しく高い電子移動度を、AlGaNおよびGaNヘテロ構造インタフェース間の境界付近に存在する二次元電子ガス(2DEG)として実証した。

 Khan氏のグループはまた、MOCVDによって成長させた世界初のGaN/AlxGaNヘテロ構造も実証した。このヘテロ構造の電子移動度は、同密度のバルクGaNと比較して室温で12倍にも達した。これらの発見によってパワーエレクトロニクスにおけるGaNの可能性をさらに際立たせた。例えば低オン抵抗、高電流能力、高電力密度の2DEGはGaN系パワーデバイスの性能向上において大きな役割を果たした。

 ユーディナデバイスはこの研究成果を収益化し、高周波帯での電力利得の基準を確立した。1年後の2005年にはNitronexがシリコンウエハー上に成長させたGaNによって作製された世界初のデプリージョン型RF HEMTトランジスタを発表した。GaN RFトランジスタがRF設計、なかでも高効率/高電圧能力を要するRFインフラアプリケーション分野に浸透し始めたのはこの頃からだ。しかしながら、GaN RFトランジスタの普及は、デバイスコストとデプリージョン型の扱いにくさに阻まれていた。

 そこで、MOCVD法を用いて標準的なシリコンウエハーの窒化アルミニウム(AlN)層にGaNの薄膜を成長させることによりエンハンスメント型GaNトランジスタ(GaN FET)を作製する取り組みが始まった。MOCVD法ではチャンバーに放出されるガスの化学反応を厳密に制御することによって金属層が作られ、AIN層は基板-GaN間のバッファーとして作用する。

<strong>図3:標準的なシリコンウエハー上に作られたGaN FET。コストはシリコンMOSFETと同等だが電気的特性に優れる。</strong> 出所:EPC 図3:標準的なシリコンウエハー上に作られたGaN FET。コストはシリコンMOSFETと同等だが電気的特性に優れる。 出所:EPC

 2009年、当時スタートアップ企業だったEfficient Power Conversion(EPC)は、パワーMOSFET代替品として設計された世界初のエンハンスメント型GaN on Siliconを発表した。この電界効果トランジスタ(FET)をきっかけに、標準的なシリコン製造技術および設備を使用したGaNの低コスト化/量産化への扉が開かれた。程なくして、富士通、MicroGaN、パナソニック、Texas Instrumentsがこの流れに乗じ、独自のGaNデバイスの開発に着手した。

GaNトランジスタとIC

 エンハンスメント型GaNトランジスタは、スイッチング速度または電力変換効率が鍵を握るアプリケーションでのパワーMOSFETに取って代わる目的で設計された。その後、GaN FET、GaNベースの駆動回路ならびに回路保護を単一の表面実装デバイスにモノリシックに統合するGaNパワーICの研究が始まった。

 この統合によって実質的にゼロインピーダンスのゲート駆動ループができ、FETのターンオフ損失がほぼなくなることから効率性が向上した。低電圧GaNパワーIC開発への取り組みが香港科技大学(HKUST)で始まり、2015年にその最初のデバイスが発表された。

 2016年、カリフォルニア州マリブに拠点を置くHRL Laboratories(以下、HRL)がGaNエレクトロニクスの可能性を低コストで最大限に実現したGaNパワーICを発表した。現在GaNパワーIC市場でシェア首位のNavitas Semiconductor(以下、Navitas)が、2013年にHRLの駐車場に置いてあったトレーラーで設立されたことは特筆に値するだろう。翌年、Navitasの共同創設者で元HRL役員のGene Sheridan氏とDan Kinzer氏は、HRLからGaNパワーエレクトロニクス技術のライセンスを取得した。

 そして2018年、商用GaNパワーICの生産が開始したのだ。

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