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ステップダウン形DC/DCコンバーターの設計(1)たった2つの式で始めるDC/DCコンバーターの設計(3)(3/3 ページ)

» 2023年11月27日 11時00分 公開
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一緒に考えよう エネルギー保存則の1つの回答

[問題]
 充電された2つのキャパシター、例えばC1(1μF/10V)とC2(4μF/2.5V)を並列に接続するとキャパシターの電位は4Vになり、蓄積エネルギーは合計62.5μJから40μJへ減少します。減少した分はどうなったのでしょうか?

[水の例で考える]
 例えば底面積の異なる2つのタンクにそれぞれ異なる水位の水がたまっている時、両方のタンクを水路でつなげば合計の面積と合計の水量に応じた水位で安定します。
 しかし、この関係は常に成り立つのでしょうか? 例えばトリチェリの真空のようにタンクの天井が閉じていても下面を水路でつなげば水位は同じになるのでしょうか? 水路でなくて水中に下面を開放したらどうでしょう?

 もう一つの例として振動水柱型空気タービン式の波力発電機を紹介します。
 開放された下面と穴の開いた上ぶたを持つ筒を下部が水没するように海中に設置し、水没していない上部を空気室とします。これは穴の開いた筒ですから空気室には空気が出入りでき、海面が波で上下に水位変動を起こせば筒の中の水位も同じ変動になります(瞬間的には異なる水位になりますが下面が海中でつながっているので時間が経過すれば同じ水位になります)。
 このように外部の波に従って筒内の水面が上下し、水位の上下動に合わせて空気室の空気が上部の穴から出入りすれば、出入り口に設置した空気タービンが往復空気流で回転し、発電します。この空気の流れや発電のエネルギーはどこから生まれたのでしょうか? 直感的に分かるように空気室の容積変動、すなわち空気室と大気との圧力差がこのエネルギーの源になります。

 この2つの例から分かるようにタンクの水位変動には水面上部の空気の出入りが必要であり、この空気の出入りによってエネルギーが移動=拡散されていきます。
 暗黙の条件としての上面開放と大気圧の存在を忘れていませんか?

[キャパシターに戻る]
 キャパシターの並列接続でも何か忘れていることはないでしょうか? タンクの例の大気圧に相当するものはないのでしょうか?
 水の例では大気圧は解析空間全体を支配する共通的な基準圧力です。ではキャパシターの例では共通的な基準圧力には何が該当するのでしょうか?
 それは無限遠の電位です。キャパシターの例ではC1の電位は6Vから4Vに下がり、C2の電位は2.5Vから4Vに上昇しました。このことはキャパシター内の電界強度が変化していることを表しています。この電界強度の変化は空間電流を生み(ΔI=C×ΔV/Δt)、この空間電流の変化は磁界変動となって空間に電界変動(ΔV=L×ΔI/Δt)を生み出します。
 連鎖的に繰り返されるこの現象は、いわゆる電磁波となって空間を伝搬していきます。この様子はポインテイング・ベクトル(Poynting vector)と呼ばれる量を計算することで得られます。ただし電極の外側には前回説明したように、もともと電界が存在しないので電磁波として伝わるエネルギーは電極間内の変動分、いわゆる充電電圧の電圧変動分だけです。この現象は磁束が発生源に戻ってくることがないことから分かるようにトランスなどの電磁結合とは全くの別物です。

注)Poynting:人名です。「指す」の意味を持つ「Pointing」とよく混同されますがスペルが異なるので注意してください。

 このエネルギー消失問題は少し高度な回路設計Webサイトでも取り上げないことがある課題であり、 「超ビギナー向け」 という本連載の趣旨からも少々外れますがキャパシターの理解のために少し寄り道をしました。
 次回はここまでの検討で得られた各部の波形からスイッチング動作に関係する素子に要求される特性項目と値について説明します。


執筆者プロフィール

加藤 博二(かとう ひろじ)

1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。


⇒【連載「たった2つの式で始めるDC/DCコンバーターの設計」バックナンバー】

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