今回は、チョークの仕様の妥当性とともにリップル電圧の図式解法、キャパシターの要求特性について説明します。
前回はFET(M1)のVDS間の電圧ストレスを軽減するCRスナバー回路とチョークL1の要求特性や材料について説明しました。特にステップアップ形DC/DCコンバーターの短絡保護回路には垂下(電流制限)型を用いることはできず、原理的に遮断型しか使用できない点には注意が必要です。
今回はチョークの仕様の妥当性について説明するとともにリップル電圧の図式解法、キャパシターの要求特性について説明します。
実際のコンバーターの設計においては設計者が直接チョークの巻線仕様を決めることは少なく、多くの場合はコイルメーカーに仕様を提示したりカタログから選択したりして調達、購入します。この購入品の仕様の妥当性を確認する資料の1つとして設計者がチョークを設計して購入品と比較することをお勧めします。
チョークの概略の値は次のように計算できます。式のパラメーターを変えれば各種の磁性材料や電力にも以下の式はその考え方を適用できます。計算に使用する各値の定義は次の通りです。
<購入仕様>
インダクタンス値:L(μH) チョークの飽和電流値:I(sat)(A)
<チョークの製造仕様>
コア断面積:Ae(mm2) コア飽和磁束密度:Bms(T)
銅線径:φ(mm) 巻き回数:N
コアギャップ長:lg(mm) コアの飽和NI値:NI(sat)
【1】最初に銅線の電流密度(10W程度以下の場合7A/mm2程度)から銅線の直径φを算出します。小型のボビンではピン(端子)の強度がないため太い銅線は巻けません。この場合は必要な断面積になるまで細い銅線を複数巻くことを検討します。場合に応じて平角線を用いた成型コイルも検討します。
【2】コア、ボビン、コア材を仮定してAe、Bmsを求め、チョークの購入仕様からLI積を求めます。
【3】必要なL値とNからインダクション係数AL(=L/N2)を算出します。次にコアのAL〜lg曲線を使って求めたALになるlgを求めます。この時、lgは銅線の渦電流損の観点から銅線径の2倍以下を目安にします。
lgが範囲に入らない場合はコア(Ae)を変更して再計算します。
【4】求めたlgやAL値、N、I(sat)からL値、NI(sat)値が仕様を満足していることを確認します。得られた各値を購入仕様書と比較します。
メタルコンポジット材については前回も説明したようにBmsが不明瞭ですから上記と同じ手順では検証できません。同一コアを使った他の仕様のチョークのI(sat)とN、Lから(Ae×Bms)を算出し、1式に当てはめ妥当性を確認します(メタルコンポジット材は一般にlgを設けません)。
近年はDC/DCコンバーターの高周波化が進んで必要なL値は徐々に小さくなり、Nは減少しています。
その一方で電流値は変わりませんのでコアサイズに比して太い導線が使用されるようになってきています。ですが太い線は小型ボビンには巻回できず、銅線の表皮効果の影響もあります。このような背景から平角線を使用した整形コイルタイプも多く用いられるようになってきています。
上記説明に使用するフェライトコアの設計各式の導出については「≪中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(6):フェライト(6) —— トランス・チョークの設計」で説明していますので式の導出手順などを詳しく知りたい方は上記資料を参照してください。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.