既に説明したようにプリント基板には寄生インダクタンスが発生しますし整流ダイオードには逆方向回復時間trrが存在します。これらの要素に急激な電圧、電流変化を与えるとスイッチング周波数以上のスパイク状の高周波振動の波形が出力に現れます。
このスパイク状の高周波振動電圧はリップルノイズ電圧*と呼ばれ、スイッチング動作に基づくリップル電圧とは区別されます。
リップルノイズ電圧は測定の技量によっても大きさが変わるため定量的な計算が難しく「こうすれば減らせる」という定性的な説明、対策が行われます。
*リップルノイズ電圧の定義には商用周波数に起因するACリップル成分が出力電圧に含まれます。DC/DCコンバーターにはこのAC成分が含まれないので定義上、スパイクノイズ電圧と呼ぶべきですが一般にはDC/DCコンバーターの場合でもリップルノイズ電圧と呼んでいます。
参考:JEITA[(社)電子情報技術産業協会]規格RC-9131B「スイッチング電源試験方法(AC-DC)」
※アルミ電解コンデンサーのESL計算例:例えばφ10、L16程度の缶サイズのコンデンサーにはW=10、L=100、t=0.1程度のアルミ箔がよく使用されます。+/−の各箔の中央にリード端子が設けられているとすると等価的にはL=50mmの箔が+/−側にそれぞれ並列に2枚、直列に2カ所と考えられます。この場合の等価ESLは前回説明した寄生インダクターの計算式を使って28.4nHと計算できます。
このESLに5A/100ns(=0.05A/ns)の電流変化が生じれば28.4×0.05=1.42Vpのスパイク電圧が生成されます。
実際のESLは分布定数ですからこのような計算のノイズ電圧にはなりませんが平滑キャパシターのESLがノイズに影響することは理解できるかと思います。
[1]インピーダンスとESRの周波数特性:https://article.murata.com/ja-jp/article/polymer-capacitor-basics-part-2
今回はステップアップ形DC/DCコンバーターのリップル電圧ΔVrを図式解法で求めた結果、ΔVrは負荷抵抗Rに反比例し、入出力電位差に比例することが分かりました。この様子は出力電圧でリップル電圧が決まるステップダウンコンバーターの様子とは異なりますので注意が必要です。
次回はいままで計算の前提にしてきたチョークの電流連続性が途切れた場合のコンバーターの振る舞いについて図式を基に検討します。このモードは「2つの式」だけでは説明が困難ですからスッテプダウン形DC/DCコンバーターと同様に「エネルギー保存則」を加えた2次方程式を通じて説明をしていきます。
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
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