電磁気学入門講座。最終回となる今回は、トランス設計者にとって生涯の悩みの種である「電磁場適合性(EMC)」について解説します。
疑いなく、電磁場適合性(EMC)はトランス設計者の生涯の悩みの種です。多くの設計者は電力、効率、温度の要求を全て満足しますが、輻射試験だけには合格できません。
完全に適合する回路と不合格の試作品との違いは、取るに足らないものか、非常に複雑かのどちらかです。そして、解決する魔法の数式はありません。唯一、この通りにしないと多くの場合ことを悪化させるという目安があるだけです。
一つは、EMCの試験に惑わされることが理由の一部です。広帯域アンテナや電動放出スペクトラムアナライザーは、全ての部品を含めた全体的な信号を拾いますが、どの障害がどの部品によるものかを特定することができません。
例えば、3種類の異なる部品が全て同レベルの障害を発している場合、3つのうち2つの問題を解決しても、信号全体においては大きな改善にはなりません。3つ全ての障害源を正した場合にのみ、障害は急に減少します。実際これが意味することは、効果がありそうな回路または部品変更を実施したとしても、影響が現れるとは限らないので、見落としがあるかもしれないということです。異なった全く無関係な変更を行ったとしても、最初の変更の効果が消えずに残っているだけかもしれません。これは、EMCの問題に関しては、試行錯誤は実際には解決にならないことを意味しています。
それでは、EMC規制に適合するための希望の光となる目安は何なのでしょうか? 最も重要なことは、適合する設計をもっているなら、可能な限り他のアプリケーションにそれを再び利用することです。しかしながら、もし何もないところから始めるのなら、以下が基本となります。
1.トランスの設置位置は近隣の部品に影響を与え、EMIを誘発する。特にギャップ付きコアは強い放射フィールドをもち、周辺部品に伝導EMIを誘導する。トランスの設置は周辺部品や、PCB配線、コネクター、設置されてない金属部品といった潜在的アンテナから離す。
2.磁束密度の低減は、放射フィールを低減する。コア面積が広く巻き数が多いと放射は減少する。対策が見つからない場合、時にトランスコアのサイズをワンランクアップすると、EMCの問題が解決する可能性がある。
3.トランスに接地付きEMシールドを追加すると、一次側と二次側の渦電流放射、静電蓄積、高周波結合を低減可能。
4.フライバック設計では、クランプ回路のループを小さく、FETのドレイン配線を短くする。
3には、もう少し説明が必要です。シールドには2種類あります。「ベリーバンド(腹帯)」はフォイルテープの1回巻き、またはワイヤ数ターンで、トランス巻き線の外回りを包み、アースを取り、コアに接続します。これは自身に短絡しているので、寄生渦電流は逃げられずシールド内に閉じ込められます。Iトランス巻き線の最も外側の層をGNDに接続することができますが、ベリーバンドシールドには必要ないかもしれません。しかし、コアのGND接続は必要です。
もう1つのシールドタイプは、アースを取るファラデー静電シールドで、通常、一次側と二次側間を、巻ききらないフォイルテープ、または半巻き状態の撚り線ワイヤループで構成されます。ファラデーシールドは、巻き線間の高周波静電結合を遮断(内部巻き線静電容量を低減)しますが、半分しか巻かないのでパワートランスには影響を与えません。静電シールドがないと、静電気がトランス内部に蓄積することで放射EMIを増加させるばかりでなく、絶縁に損傷を与える可能性があるので安全問題の原因にもなります。
分割巻き線は複数のシールドが必要で、トランスが大きい場合はシールド毎に複数のアース接続が必要になることがあります。シールドはノイズのないアースに接続することが重要です。そうしないと、その有効性が低下する可能性があります。
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※本連載は、RECOMが発行した「DC/DC知識の本 ユーザーのための実用的ヒント」(2014年)を転載しています。
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