快適で安全な運転を実現する電子システムで最大の課題となるのは、HMI(human machine interface:ヒューマンマシンインターフェース)の実装であろう。HMIは、車両に搭載されている予測/予防システムのそれぞれを、ドライバーの期待や認識に対応するように動作させることを保証しなければならない。これらの機能はドライバーを支援するものであるわけだが、状況によっては、それによってドライバーの意思とは異なる結果をもたらす可能性がある。
システムの自律化が進むに従い、ドライバー自身が車を制御する機会は少なくなる。ただし、部分的にしか自律していないシステムは、ドライバーの不注意を誘ってしまい、かえって危険性を増やしてしまうことがある。例えば、意思決定を必要とするような状況において、ドライバーの反応を遅らせてしまう可能性がある。衝突しそうなときに、2台の車のうち、どちらが他方への衝突を回避すべきなのか、それが車ではなく、歩行者だったらどうするのか――こうした状況を車載制御システムが正確に認識し、事故が発生しそうなときの外的要因に基づいて適切な判断が下せるようになるまで、メーカーはこうした判断のすべてを安全システムに任せることはできない。
HMIでは、ドライバーの負荷についても考える必要がある。ドライバーにどのような方法でデータを提供するのかということも重要な問題だ。すべての情報をディスプレイ上に表示するという考え方もあるが、そうするとドライバーの注意がディスプレイに向けられることが多くなるし、表示されたデータを常に解釈しなければならず負荷が大きくなる。運転中にディスプレイから警告が発せられるようなシステムだと、さらにドライバーへの負荷は大きくなり、道路に対する注意をそいでしまうかもしれない。運転中にディスプレイに表示される情報が多いほど、ドライバーはデータを取捨選択して解釈するために頭を使わなければならなくなるのだ。
テレマティックシステムは、ドライバーにとっては非常に便利なものである。しかし、ドライバーがどのようにそのシステムを利用するのかということが非常に重要だ。単にラジオのスイッチを入れるだけでも、ドライバーの注意がそがれることが分かっている。米VoiceBox社の「Telematics Navigator」は、ラジオ局を選択するときのドライバーの負荷を減らすアプローチを採用している。このシステムでは、ドライバーは言葉を使って機能を選択したり操作したりすることができる。
こうしたシステムを構成するコンポーネントの価格が低下するに連れ、車載用電子システムには新機能が追加されていくだろう。コンポーネントの価格を下げるためには、より複雑な機能をサポートするソフトウエアレイヤーを構築する必要がある。業界全体で、ソフトウエアの再利用と複雑なシステムの検証を可能にすることが、これらのシステムの発展には不可欠である。このような背景から、AUTOSAR(automotive open system architecture)では、将来のアプリケーションとソフトウエアモジュールの機能を管理するための基本インフラの構築に取り組もうとしている。
新しいシステムにとっての最後のハードルは、自動車の運転の大部分をゆだねることを心理的に受け入れられるかどうかということである。実際、ESCのような既存のシステムに対しては、マニアから運転の楽しみが減ってしまうという苦情があるくらいだ。また、そうしたシステム間の相互依存性が高まるに連れ、自分自身で車を調整することができなくなる。なぜなら、そのような変更がシステム全体のパフォーマンスに悪影響を及ぼしかねないからだ。
本稿で紹介したシステムの基本コンセプトは、自動車だけでなく、飛行機や電車、船舶など、どのようなタイプの乗り物にも通じるものである。あるタイプの乗り物で1つのシステムが完成すれば、ほかのタイプの乗り物にも適用可能であることが期待できる。
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