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節点法の計算原理を例題から学ぶSPICEの仕組みとその活用設計(2)(3/3 ページ)

» 2013年06月04日 11時30分 公開
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電圧源の組み込み

 実際の回路に用いる電圧源には小さいと言えども内部抵抗が存在します。この電圧源の内部抵抗の影響を理解するために、図3(a)のような、電圧源V、内部抵抗R0、負荷抵抗RLで表される回路の動作について考えます。

 図3(a)において、端子i、j間の電圧をVijとした時、電圧Vijと抵抗値RLの関係は式(8)で表されます。

式8

図3 図3 電流源と電圧源(クリックで拡大)

 また、端子i、j間を短絡した時には電圧Vを内部抵抗R0で短絡した電流が流れます。この短絡電流をIeqとすれば、コンダクタンスG0(=1/R0)を定義して、式(9)のように表現できます。

式9

 さらに、コンダクタンスGL(=1/RL)を定義して、この2つのコンダクタンスと式(9)を式(8)に代入すると、式(10)が得られます。

式10

 式(10)を回路図で表現すると、図3(b)のようになり、電圧源と内部抵抗の直列回路を、電流源と並列コンダクタンスに置き換えて表現することができます(ノートンの定理)。

注:抵抗RLが無限大の場合、逆数のコンダクタンスGLは0になります。従って、図3(b)の合成コンダクタンスGeqはGLで短絡され、Vijは0Vになると考える方もおられるかもしれません。しかし、並列コンダクタンスは、式(7)のように加算で求めます。実際の合成コンダクタンスGeqは、

Geq=G0+GL=G0+0=G0

ですので、コンダクタンスGLは接続されていないことと等価になり、図3(a)の電圧源表記による結果と同等になります。


計算してみよう

 ここまで挙げた、節点法の計算原理、抵抗に替わるコンダクタンスの使用、内部抵抗を持つ電圧源という考え方を使って、図4の回路図例の節点について計算してみましょう。それぞれの要素の値は、R10=1Ω、R12=2Ω、R20=4Ω、V=7Vです。

図4 図4 内部抵抗のある電圧源
表3 表3 図4(b)のG行列

 電圧源VはR10と組み合わせ、これらを電流源I1(=7A)とコンダクタンスG10(=1S)に置き換えます。

 その他の部品のコンダクタンス値はG12=0.5S、G20=0.25Sであり、VはI1とG10の組み合わせですので各行列要素は表3のようになります。具体値を代入すれば、解くべき式(11)が得られます。

式11

 ここから0行0列を抜くと、最終的に式(12)が得られます。

式12

 そして、行列[G]の逆行列をMINVERSE関数で求めて、電流ベクトル[I]に掛ければ式(13)になります。

式13

 式(13)を計算すると、

v1=0.8571…×7=6.0V
v2=0.5714…×7=4.0V
v12=6−4=2V

となり通常の計算と一致します。

理想電圧源の組み込み

 以上の計算例では、内部抵抗のある電圧源の組みについて説明しました。しかし、本来のフロントローディングとしての回路案検討段階では周辺定数が定まっていませんので、電圧源を内部抵抗のない理想電圧源として扱う場合がほとんどです。

 内部抵抗が0Ωということは電流源の並列コンダクタンスが無限大になるので、上述した考え方では行列[G]が成立しません。この問題についてはインダクタンスの組み込みのときに併せて説明します。

 それまでは計算例でも理想電圧源は取り上げないことにします。




 今回は、抵抗値が電流や電圧で変化しない線形回路の静解析について説明しました。次回は、抵抗値が電圧や電流によって変化する非線形回路の静解析について取り上げます。

執筆者プロフィール

加藤 博二(かとう ひろじ)

1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。



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