コアの設計パラメーターとしてはすでに述べたパワーファクタKPがありますが、インダクタンスの定義の式から、
もチョークの設計に使える有意なパラメーターです。もちろん、この式は理論式であり実際には補正が必要になりますが、10式からチョークのL・Isatの値は巻回数Nに比例することが分かります。この新しいパラメーターをLI積と呼びますが、このLI積は前出のL・I2積とは値が異なりますので混用しないようにしてください。
注)コアの窓面積Awが決まっている場合には(巻回数×平均電流)は一定という制限も付きます。
LI積では、
55μ×12=N×107×10-6×0.35
からN=17.6Tとなります。
[基本設計]
L=55μH、飽和電流Isat=12AP仕様の条件でトランスの設計で使用したコア(FEER35A)を使用する場合、
KP=7.92×10-3ですから前回と同じギャップ長lgを使用します(1mm)。
N=√(55μ/169n)=18T
N・I=215AT Isat=11.94A ですからほぼ設計仕様を満たせます。
[設計変更内容]
このチョークをL=100μH、Isat=10APに仕様変更します。(KP=10×10-3)
従来の設計法では『N変更→N・Isat確認→ギャップlg変更→N変更→……』というループ計算を行うか、あるいはKPを用いて再設計を行いますが、ここでは上記のLI積を使って設計変更を行ってみます。
1)L・I=100μH×10A=1000 したがって元のLI積(660)に対して1.52倍に巻回数を増加させるために、
N=18×1.52≒27Tに変更します。
2)必要なインダクション係数ALは AL=100μ/272=137nH/T2ですから、lg=1.35≒1.4mm
→ギャップ長1.4mmの時のALは9(b)式やグラフよりAL=133nH/T2となります。
3)N=27TとしてL値を修正します。L=97.0μH
4)1.4mmギャップ時のN・Isatは9(c)式やグラフよりN・Isat=275ATですからIsat=10.2Aとなります。
決定した新仕様 ギャップ長1.4mm N=27T L=97.0μH Isat=10A
ここでは平均電流IAVEについては論じていませんがコアの窓面積*)の制限から旧仕様の18T/27T=0.67倍になることは容易に計算できます。IAVEとIsatは別の特性項目なのです。
飽和電流が△16.7%(10A/12A)であるにもかかわらず、平均電流は△33%になることに注意してください。
パワーファクタKPを用いた計算でも同じ値になりますが、仕様変更であれば巻回数、ひいては平均電流の推定のし易さからここで紹介したLI積の方が使いやすいかと思います。
*)正しくはボビンの窓面積
ここで紹介したALやN・Isatおよび、KPなどのパラメーターを活用するには実測式を入手することが必要になりますが近似式でも概数の事前検討には十分有効ですので活用していただけたらと思います。
また、ギャップ特性を実測できる環境になければメーカーに問い合わせてデータを入手されることをお勧めします。その際にはN・Isat測定時のΔLの閾(しきい)値も合わせて入手してください。
このフェライトのシリーズでは磁性の発現から磁気飽和、磁気回路に使う計算式の導出とその応用について説明させていただきました。今まで専業メーカーに依頼していたインダクタンス部品の設計検証に役立てることができれば幸いに存じます。
次回は電気回路の安全確保に欠かせない「ヒューズ」について説明したいと思います。
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.