PCB表層のマイクロストリップライン、内層のストリップラインでは、結合先のGND層を下層や上下に配置するため、電気的な結合を示す電気力線は図15(a)や(b)となります。
図15(c)のように片方だけにGNDラインが近傍にあると、差動ペアの片方と強く結合し、差動ペアの結合がアンバランスになります。図15(d)では差動の片方に行ったGNDガードラインの処理をもう片方にも行った場合の電気力線です。差動ペア双方に平衡したGNDガードラインを配置しているため、差動ペアの電気力線はバランスを保っています。
PCBの差動配線で不要輻射を低減させるためには差動ペア間の結合を密にすること(=Sを小さく)とその差動ラインの不平衡を最小にすることです。基板メーカーの最小配線間隔Sを使用して、配線幅W、層厚hを変更し特性インピーダンスを調整すると密結合の配線となります。
PCB上で差動信号が伝達する際、図16の水色両矢印の差動ペア間の結合だけでなく、黒矢印の下層のリファレンスGND層とも電磁界的に結合し信号が伝わっています。
差動100Ωなどの差動モードインピーダンス(Zdiff)の値は、下層GND層との結合のコモンモードインピーダンス(Zcom)が影響します。そのため、下層リファレンスGNDの一部を抜いたり、スリットが存在したりするとGNDとの結合分が弱くなり、その部位のコモンモードインピーダンスが上昇し、差動モードのインピーダンスも上昇します。このGNDリファレンスを抜いた部分で差動のインピーダンス不整合が発生し信号の反射が起こります。
そのため、差動配線のリファレンスとなるGND層は差動配線に沿って切れ目のないベタ層を供給し、コモンモードインピーダンスを一定になるようにします。下層GNDとの結合が均一の構成は、不要輻射ノイズの低減にも効果的です。
(注:電磁界シミュレーション系ではZeven(偶数モードインピーダンス)とZodd(奇数モードインピーダンス)を使用しています。Zeven÷2=Zcom(コモンモードインピーダンス)、Zodd×2=Zdiff(差動モードインピーダンス)の関係となります)
遠方に放射される不要輻射ノイズはコモンモードのエネルギーを測定することで一部推測が可能です。
図17はシングルエンド(図17(a))と差動伝送路のコモンモードエネルギー(図17(b))を表しています。シングルエンドの信号ではすべてコモンモードのエネルギーになりますが、結合が強くバランスのとれた差動ではコモンモードエネルギーの放射は限定的です。
しかし実際の差動信号では差動ペア間のスキューやエッジレートの違い、コモンモードノイズの重畳など多く存在します。これら状態は図17(b)の理想的な差動の結合状態から乖離し、発生するコモンモードエネルギーが不要輻射ノイズの要因となります。
差動結合が弱く(もしくは、なく)差動間にペア内スキューがあると、図17(c)のような波形になりノイズを放出します。立ち上がり、立ち下がりが非対称なエッジレート(図17(d))でもコモンモードノイズとなり、不要輻射の原因となります。これらを認識し最適化することで不要輻射ノイズの低減が可能になります。
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