PCB上のマイクロストリップやストリップラインなど、信号は導体表面を伝わりPCB表層では約50%の光速で伝搬します。差動伝送路では2本の差動ペア間の結合で信号が伝達していることでも分かるように、信号線1本だけでは高速の信号はうまく伝わりません。図18のPCB上のシングルエンド信号配線も同様で、内層のリファレンスGND層(水色)と結合して高速の信号は伝送路上を伝達していきます。
昔からの習慣でこの最も近傍の電磁界の結合先であるGND層をリターンパスと呼び、図19のような穴の開いたリファレンスGNDが信号線直下にあると、戻りのリターン電流の「リターンパス」の経路が長くなるため、「リターンパス」を短くすることが重要であると説明される場合が多いですが、高速の信号伝送ではこのGND層に図19の青矢印の方向の受信端から送信端に逆に戻るようなリターン電流は流れていません。
高速の信号伝達では第4回の「図18:ポインティングの定理の説明」と同様に、結合先のGND層も信号線と同じように送信端から受信端方向に向かって電流が流れます。GNDと信号線が電磁気的に結合し、(準)TEM波(図20)で信号が伝搬することを考えると理解しやすいでしょう。
図21は図18のマイクロストリップライン基板が下層GNDとの電磁界の結合により信号が伝わる様子のアニメーションです。Port1(下側)が送信端、Port2(上側)が受信端で、GND層を挟んでPCB両面を使用し配線されており、マイクロストリップラインの信号が電磁気的に伝わっていく様子を電流密度の変化で表示しています。
基板上の伝送路では、高速の信号は準TEM波で伝わる電磁波により、結合先のGND層でも信号ラインと同じ送信端から受信端方向にエネルギーが伝搬していることが分かります。
今回は差動信号の伝送路設計と密結合、不要輻射、リターンパスについて説明しました。次回はケーブル・コネクターの選定とデバイスのピン処理について説明していきます。
2018年1月31日(水曜日)に、キーサイト・テクノロジーの協力を得て、高速シリアル伝送設計の技術セミナー(主催:ザインエレクトロニクス)を行うことになりました。
セミナーには筆者も登壇し、今後、本連載で解説していく予定の代表的なSerDes方式3種類のそれぞれの優位点とその最適な使用方法、CML物理層で使用される10Gbps+の高速伝送路の設計手法などを説明する予定です。ご興味のある方は以下のWebサイトにアクセスいただき、ご登録ください。
【参考文献】
・ギガビット伝送システム開発力強化集中講座 CQエレクトロニクスセミナ2012 講演資料 河西基文.
・ナショナルセミコンダクタージャパン株式会社 LVDSオーナーズマニュアル 第3版/第4版
ナショナルセミコンダクタージャパンやジェナムジャパンなど、25年にわたり高速通信系半導体の製品開発・サポートおよびマーケットの開拓に従事。伝送路を含んだ半導体の高速設計手法が確立されていない時代に、LVDSオーナーズマニュアルの作成など、同マーケットの成長・普及に寄与してきた。
現在は日本のSerDes製品開発の先駆者的存在のザインエレクトロニクスで、プロダクトマーケティング・開発支援や人材育成などを行っている。
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