図5のクロック埋め込み型SerDes(8B10Bや10B12B〜64B66B系)では、クロック情報がシリアルデータに埋め込まれており、シングルレーンではペア間スキューの制限はありません。
マルチレーンでもペア間スキューの制限はUI(Unit Interval)単位となり大幅に緩和されるため、ペア間スキューの問題は回避できます。しかし、LVDS SerDesと比較するとシリアルレートが高速になるため、伝送距離はデバイスで補償可能な伝送路「PCB+コネクター+ケーブル」のインサーションロス(伝送損失)に依存することになります。
以下では3Gビット/秒(bps)[帯域1.5GHz]で動作するクロック埋め込み型SerDes(もしくは外付けイコライザー付き)を例に、ケーブルのインサーションロスとケーブル長の関係を説明していきます(ここではPCBとコネクターの伝送路損失は限定的として無視します)。
まずシリアライザーの出力はプリ/デエンファシスなし(0dB)、デシリアライザー内蔵もしくは外付けのCTLE*1)イコライザーのACゲイン(ケーブルインサーションロス特性の補償/図6-2)は1.5GHzで12dBの設定とします。
この設定では、表1の導体太さ(AWG:American Wire Gauge)の違いによるケーブルインサーションロスのグラフより、周波数1.5GHz時の減衰量(縦軸)を参照すると、AWG24番線(銅線直径0.5mm)差動ケーブルで10m程度の伝送が可能なことが分かります。またAWG30番線(銅線直径0.25mm)の細い差動ケーブルでは、1.5GHzで比較するとインサーションロスが2倍程大きく伝送距離は半分になります。AWG28番線では同様の計算でAWG24の3分の2程度の距離になります。
このようにケーブルのインサーションロスの特性を把握することで、使用デバイスにおける各ケーブルのおおよその伝送距離を見積もれます(アダプティブイコライザー付き製品を使用する場合は、推奨ケーブルでの最大ケーブル長のインサーションロスと他のケーブルのロスを比較します)。
表1上側青系のグラフは同軸ケーブルのインサーションロス(10m)を記載しています。このロス特性から、デバイスの高速シリアルI/O(もしくは追加のドライバー・レシーバーで)で図7のようにシングルエンド信号をサポートする場合、ロスの少ない誘電体を使用した太めの同軸ケーブルで大幅なケーブル延長が可能なことが分かります。
例えば無線で使用される安価な5D-FB 50Ω高周波同軸ケーブル(外寸直径約7.5mm)では、同条件でAWG24の差動ケーブルの4倍程度まで、3割細い3D-FB(外寸約5.5mm)では3倍程度まで、伝送距離の延長が可能になります。
このグラフでは一般的な材質のケーブルインサーションロスを記載していますが、これ以外にも低誘電正接/低誘電率の誘電体を使用したローロスのケーブルが用意されており、高速長距離伝送で使用されています。
ローロスケーブルを使用した場合、高速の電気信号で最大どの程度まで長距離伝送が可能か、皆さん興味があるのではないか思います。例えば業務用や放送用のビデオ伝送で使用されるSDIの同軸75Ω系アプリケーションでは、現在12Gbpsで100mの伝送距離を実現しています。ここで使用されている外寸7.7mmの同軸ケーブルL-5.5CUHD(75Ω)のインサーションロス(表2赤い線)は、100mで40dB@6GHzと大変小さく(10mでは4dB@6GHz)、CTLEのイコライザーで補償できるレベルのインサーションロスであることがこの100mの長距離高速伝送を実現している理由の1つです。
*1)CTLE(Continuous time linear equalizer):高周波領域をブーストするアナログのイコライザー
不要輻射ノイズの低減が必要な場合は、シールドのない図8-1、図8-2のUTP(Unshielded Twisted Pair)構造のケーブルではなく、各差動ペアにシールドとケーブル全体にシールドが施された2重シールド図8-3のツイナックス(Twin−Coax)ケーブルの採用を検討します。
ツイナックスケーブル(図8-3)のケーブルを覆う全体のシールドは、内部からのノイズ放射を遮蔽(しゃへい)するために使用されます。そのため、この全体シールドは安定したノイズの少ないFG(フレームグランド)などのGNDに接続します。
各差動ペアシールドのドレイン線は差動信号ペアのコモンモードGNDとなるため、図9のようにI/OデバイスのSG(シグナルグランド)に接続します。
ケーブル全体のシールド線をノイズの多いSGに接続すると、基板上のノイズが筺体シールドを抜けてケーブルから外部へ放射するアンテナとなるため、ケーブルのシールド線に接続するGNDのノイズには注意が必要です。
ツイナックスケーブルは、ノイズ放射の特性以外にも、外部から印加されるノイズ耐性や高周波のリターンロス、クロストーク(FEXT・NEXT)についてもUTPやSTP(全体シールド付きのUTP構造)と比較すると大幅に優れています。
Ethernetで使用されるCat-5/6/7 UTPケーブルは、ペア間スキューが大きくLVDS SerDesでは使用できませんが、安価でロスも少ないため、ペア間スキューの定義がなく、クロストークが問題とならないアプリケーションでの使用が可能です。
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