同軸ケーブル2本を使用し差動信号を伝送する構成では、イントラスキュー(差動PチャンネルとNチャンネル間の信号スキュー)を抑えるため、ケーブルの物理的な長さではなく電気長をそろえなければならず、長距離やスキュースペックが厳しい高速ではコントロールが困難です。
差動ケーブルでPチャンネルとNチャンネルの差動ペア内の結合が強い「密結合」構造では、イントラスキューを自ら補償する能力が高く、スキューを抑えて長距離の高速信号伝達が可能になります。
シールドなしのツイストペアケーブル(UTP)では、輻射ノイズやペア間スキュー(インタースキュー)、クロストークの特性は、ペアごとにシールドされたツイナックスケーブルと比較すると大幅に劣りますが、PチャンネルとNチャンネルの差動ペア内の密結合でのみエネルギーが伝達するシンプルな構造のため、ケーブルで追加されるペア内(イントラ)スキューは長さにかかわらず非常に少ないことが特長です。
ペア内スキューのある差動信号を、しっかりとよじったツイストペアケーブル(UTP)に入力し、その出力スキューを確認する評価を以下のような構成で行い、差動の密結合の特徴を見ていきます。
まず信号発生器から500Mbpsのランダムパターン(PRBS15)を一対の1m UTPケーブルに入力(図10-1)し、その出力波形を図10-2に表示しています。ここではケーブルを通過した波形(図10-2)にPチャンネル(上側)とNチャンネル(下側)のペア内にずれ(イントラスキュー)がないことを確認しています。
次に信号発生器のNチャンネルにのみ5cmの長さを追加(図11-1)し、UTPケーブルを接続せず出力信号を測定しています。図11-2のようにNチャンネル(下側)のみ5cmの伝送路追加による220ピコ秒の遅延があります。
Nチャンネル(下側)の220ピコ秒遅延した信号と遅延のないPチャンネル(上側)信号をこの1mのUTPケーブルに入力し、1m通過後の波形を測定した結果が図12-2です。
図12-2の結果から分かるようにUTPでは差動ペア内の電磁界による結合「密結合」でのみ信号が伝達しているため、コモンモードフィルターと同様に配線長差によるペア内のスキューを補正しています(ただしこのPチャンネル・Nチャンネル信号のアンバランスの成分はコモンモードエネルギーとして外部へ放射され、エッジのエネルギーは低下します)。
次にUTPを接続しない状態で、出力Nチャンネルにのみ−6dBのアッテネーターを追加挿入した波形が図13-1です。
Nチャンネル(下側)は220ピコ秒のスキューと振幅が半分(−6dB)となっています。
この環境でUTPケーブルを接続し、1m通過後の波形が図13-2になります。
差動とGND間のコモンモードインピーダンスを上げ、差動ペア内を密結合とする伝送路では、図13-2のようにケーブル通過後は差動ペア内の振幅とスキューについてもバランスのとれたずれのない信号に補正していることが分かります。
ペアごとにシールドが施されたツイナックスケーブルも、差動信号とシールド間の結合(コモンモード)が弱く、差動ペア内(差動モード)が密結合の構造では、同様の効果が見込まれます。
この差動ペア内(差動モード)とコモンモードのGND間のインピーダンスをコントロールし、差動ペア内のスキューを最小にする手法は、スキュー管理がますます難しくなる20Gbpsを超える差動ケーブルや一般の基板設計にも応用が可能です。基板設計の例では、マイクロストリップライン直下のリファレンスGND層にスリットがあるような構造でも、この手法を用いることでGNDスリット部の特性インピーダンスの上昇を減少させることも可能です。
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