上に示した例では、47μFのコンデンサーを使用してバックリップル電流を低減しましたが、この「47」という値はどこから来たのでしょうか。容量が大きいほどコンバーターに供給できるエネルギーも大きくなることは明らかで、容量の大きいコンデンサーは電極層間の内部表面積も大きいので、ESRが小さくなります。しかし、大容量の電解コンデンサーにはより広いボードスペースが必要で、価格も高くなります。従って、選択プロセスは、コンポーネント性能の影響を受けるのと同程度に、コストにも影響します。標準的な入力コンデンサーの値は22μF〜220μFの範囲なので、47μFという値は一般的かつ現実的な妥協値です。
容量値よりも重要なのが、コンデンサーのリップル電流定格です。コンデンサーに流れるAC電流は熱を発生させます。コンデンサーの温度が規定された限界を超えると、コンデンサーの寿命が大幅に低下します。極端な場合は、電解液が沸騰してたちまち故障してしまいます。
コンデンサー内のACリップル電流を測定することは非常に困難です。これは、測定用のシャント抵抗を直列に接続すると、結果に大きく影響するからです。外付けコンデンサーなしの状態でバックリップル電流を測定し、次にコンデンサーを追加して再度測定を行えば、これら2つの測定値の差が、コンデンサーを流れるリップル電流です。
あるいは、コンデンサーのESRとコンバーターの動作周波数fが分かっている場合は、ラインインピーダンスZLによる残留電圧リップルを測定して、次式によりリップル電流を計算することができます。
コンデンサーのデータシートには、最大リップル電流の仕様が記載されています。制限要素は、コンデンサー内部の消費電力による温度上昇です。リップル電流によりコンデンサー内で損失する電力は次式で表されます。
この式から得られる温度上昇値は次の通りです。
ここでkAはコンデンサーの熱伝導率で、熱インピーダンスkに表面積Aを乗じたものです。熱伝導率の単位は℃/Wです。
実用的ヒント
バックリップル電流の測定は容易ではないので、コンデンサーの温度を測定して、温度上昇からリップル電流を求めた方が簡単なこともあります。
アプリケーションによっては、1つの1次電源に複数のDC-DCコンバーターを並列に接続しなければならないことがあります。最も一般的なのが、POL(Point-of-Load:負荷点)電源システムと冗長(N+1)電源システムです。それぞれのDC-DCコンバーターは個別にバックリップル電流を発生させ、これらの電流が全体的な電流負荷に加わります。
公称スイッチング周波数が100kHzの同じDC-DCコンバーターを2個使う場合を考えます。製造時の許容差によって、一方の周波数が100kHz、他方が120kHzという場合も考えられます。FFT解析を行えば、100kHz、120kHzおよび差分20kHzの3つの周波数が現れます。この低周波クロス干渉、あるいはビート周波数は、フィルターによる除去が極めて困難です。
ビート周波数干渉は、各DC-DCコンバーター入力を個別にフィルタリングすることによって回避できます(図9)。LCフィルターは、コンバーター間のビート周波数干渉をブロックします。インダクターは大量のDC電流を通さなければならないので、Lの値はかなり低い22μH〜220μHが標準的な値です。さらに、1次電源の入力間にコンデンサーを取り付ける必要もあります。LCローパスフィルターのフィルタリング効果は双方向性なので、さらに干渉を減少させるためにCMAIN−L−Cによって形成されるπフィルターが使われます。
実用的ヒント
入力コンデンサーC1とC2は、コンバーターの入力ピンのできるだけ近くに配置することが重要です。コンデンサーとコンバーター間のPCB配線は、それが非常に短いものであっても、フィルターの効果を損ないます。共通VIN−接続はできるだけ幅広く、インピーダンスを低くする必要があります。接続は、クロス干渉によるそれ以上の影響を避けるために、全て1次電源端子に集める必要があります(スターポイント)。
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※本連載は、RECOMが発行した「DC/DC知識の本 ユーザーのための実用的ヒント」(2014年)を転載しています。
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