既に述べたように、出力干渉は対称成分と非対称成分の両方からなります。リップルは主に差動干渉であり、ノイズは主に同相干渉です。対称ノイズは全ての出力に同時に出現するので出力コンデンサーでこれを捉えることはできず、LCフィルタリングを追加しても干渉は減りません。同相ノイズは、負荷が完全に対象で直線性を備え、なおかつ絶縁されている場合には、問題となることはありません。しかし、負荷の挙動やグランドへの電流経路に少しでも非直線性が含まれていると、同相ノイズが変換されて差動干渉が発生するので、やはり同相ノイズにも対策を講じる必要があります。同相干渉を減らす方法は2つあります。低インピーダンスの経路を介してノイズを「短絡」させるか、同相チョークを使用する方法です。
ほとんどの同相出力ノイズは入力側のスイッチングスパイクによって発生し、トランスの結合容量を介して出力に現れます(図5)。この干渉を減らすには、入力側へ戻す経路を設ける必要があります。出力はガルバニック絶縁されているので、戻り経路を設ける場合は、ノイズ周波数でのインピーダンスを低く抑えるために選ばれた外付けコンデンサーを経由する必要があります。
数MHzのスイッチングスパイク周波数に対するインピーダンスを低く抑えるために、同相コンデンサーは通常1n〜2nFの範囲のものが使われます。これらのコンデンサーは絶縁バリア越しに取り付けられるので、耐電圧試験の電圧に合った定格のものを選ぶ必要があります。
アプリケーションの中には、絶縁バリア越しに同相コンデンサーを組み込むのが望ましくないものもあります。例えば、医療用機器には厳密な漏れ電流の規定があって、高周波用の絶縁バリア越しに低インピーダンス経路を設けると、この規定を超えてしまう恐れがあります。このようなアプリケーションでは同相チョークを使用する必要があります。同相チョークの特長は、逆方向に巻かれた2つの巻線を備えていることです(図6)。
この逆方向巻線によって、同相電流ISは、同方向に流れている場合であってもコア内に正味磁束を発生させます。従って、コアのインピーダンスが同相電流を効果的に減衰させます。順方向と戻り方向の差動電流INは、正味磁束を発生させないので減衰されません。大量の差動電流が流れる場合でもコアは飽和せず、高透磁率のインダクターを使用して、インダクターを流れる差動電流による過熱のリスクなしで同相ノイズを除去することができるので、これは利点となります。
DC-DCコンバーターに同相出力チョークを使用した場合の例を図7に示します。一方の巻線はVOUT+出力と直列に接続され、もう一方の巻線はVOUT−の戻りラインと直列に接続されています。同相チョークは、高透磁率のコア材料により、広い周波数範囲にわたって同相ノイズを減衰します。これは、メインスイッチング周波数とその高調波をフィルターで除去する上で重要です。
同相チョークを使用した同相除去の原理は、バイポーラ出力コンバーターに拡張できます。同相ノイズは3本の出力ピン全てに同時に現れるので、巻線が2本の標準的な同相チョークで除去するのは非常に困難です。その解決策は、3本の巻線を備えた同相チョークを使用することです。トリプル同相チョークの二次的な効果は、コンデンサーを2個追加することによって、差動ノイズの除去にも使用できることです。
3本の巻線はそれぞれ別々にコアに巻き付けられており、巻線間にある程度の漏れインダクタンスLSが生じるように分離されています。コア材料を選択する時は、巻き数を少なくして導線の抵抗を低く抑えることができるように、透磁率の高いものを選ぶことが重要です。インダクタンスの計算には以下の関係が適用されます。
インダクタンス係数ALは巻数1回あたりのインダクタンス(nH/N2)で、これはコア材料やインダクターの形状によって異なります。通常、巻線間の漏れインダクタンスLSは巻線インダクタンスLCの約3%であり、コンデンサーを2個追加することにより高周波差動干渉を除去するために使用できます。
コンデンサーC1〜C3は、同相ノイズをグランドへ逃がす低インピーダンス経路を提供します。1n〜10nF程度の高電圧ディスクセラミックコンデンサーが適していますが、絶縁テスト電圧が低い場合はMLCCコンデンサーを使用することもできます。DC-DCコンバーターの内部構造によっては、C1とC3を省くことができます。コンデンサーC4とC5は、L1/L2巻線とL2/L3巻線間の漏れインダクタンスとの組み合わせで、ローパス差動フィルターを構成します。通常、コンデンサーC4とC5には1μFより大きいものを使いますが、これらにはMLCCを推奨します。巻線間の漏れ容量を経由してチョークを通過する全ての同相ノイズは、もう1つの同相コンデンサーセットC6〜C8によってグラウンドへ逃がすことができます。通常、チョークの巻線インダクタンスは数百マイクロヘンリーなので、差動フィルター計算時の漏れインダクタンスは5〜10μHが標準です。
以下の計算式を使用できます。
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※本連載は、RECOMが発行した「DC/DC知識の本 ユーザーのための実用的ヒント」(2014年)を転載しています。
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