強誘電体の多くは外部電界を取り去っても自発分極と呼ばれる状態が継続する物質です。強誘電体として有名なチタン酸バリウムでは図6に示すように中心のチタンイオン(4+)が結晶中心から1%ほどズレていることに起因します(変位形イオン分極)。
このためチタン酸バリウムの分子は非対称となって微小な分極が発生し、電界を加えなくても近傍の分子は静電力によって同一方向にそろいやすくなります。
例えば図6では上面が+に、下面が−に帯電しますので上下方向に+、−、+、−、……と整列しやすくなります。ただし無限に大きくなることはできず、外部電界ゼロの状態ではいくつかのサイズの領域が反平行に並んで全体としてエネルギーゼロ状態になっています。
この分極を自発分極と言い、+イオンの位置ズレを解消するためにはキュリー温度より高い温度を必要としますのでチタン酸バリウムの自発分極は常温(120℃以下)で消滅することはありません。
この状態で図7(a)〜(c)のように外部電界を加えていくと、フェライトの2章で説明したように全体の分極方向がそろうことで外部エネルギーを内部に蓄積していきます。この時、分極の方向がそろっているため非常に強い誘電性を示します。そして状態(c)で全体の方向がそろった後は電子分極やイオン分極によって分極はわずかに増加しつつ(c’)に至ります。
外部電界の減少時も同様な曲線をたどりますが非対称イオンの状態を反転させるには一定値以上のエネルギーを必要としますので同じ外部状態でも前の状態の影響を受け、状態(d)→(e)→(f)→(g)のようなヒステリシス曲線を描きます。
またフェライトの場合と同様に、この曲線の面積がキャパシターの交流損失tanδに関係します。
図7の様子は結晶粒の中の1つの領域(ドメイン)について考えたもので実際にはこのようなドメインが複数集まって図8に示すような構造を取っています。誘電体全体の分極の方向がそろっているわけではありませんので結晶粒全体としては図8に示すようなソフトなヒステリシス曲線を描きます。
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