パワーMOSFETにおいて希有な不良メカニズムに遭遇した事例です。
前回説明した『チップ無断変更』の海外メーカー製2チップパワーICにおいてMOSFETの焼損事故が再発しました。
図3にこのMOSFETに用いられる2重拡散型のMOSFETの断面図を示します。この種のMOSFETには通常、アバランシェ耐量というTVS(Transient Voltage Suppressor)と同様なサージ耐量があります。この不良は通常のアバランシェ耐量試験では差異は見つからなかったものの、市場で1%近い故障を起こした事例です。
2重拡散型MOSFETのチップ上面は図4に示すように各セルが交互に並んだイメージになっています。そしてチップ全面に設けられたセルの上に半円形のソース電極ボンディング用アルミパッドが設けられ、このアルミパッドによって図5(a)に示すようにセルのゲートとソースが短絡されています。この短絡により該当セルは図3の寄生ダイオードのみがダイードとして動作します。また短絡されるセルのゲートは通常のチップ内ゲートランナー(配線)から切り離されて影響が及ばないようになっています。
【ルーズコンタクトの発生】
6カ月にわたる解析と追跡調査により焼損事故品にはMOSFETのロット依存性があることが分かりました。この事実に基づいて市場で故障したMOSFETと同一ロット品を詳細に観察すると図4に示すように一部のゲート電極がソース電極と辛うじて接触(ルーズコンタクト)するデザインになっていることが観察できました。
この形状では拡散のバラツキによってはゲート電極がソース電極と切り離されて図5(b)に示すゲートオプンに近い構成になり、意図した動作にはならないセルができてしまいます。
この結果、特定の使用条件下においてアバランシェ耐量がなくなり市場で故障したものと分かりました。
【対策】
【品質管理体制の課題】
(これらの点はこの不良事案を日本法人内で処理したい思いからのようです)
【注】
図5(a)、図5(b)に示すように等価回路が異なるのでアバランシェ耐量が低下することは推測できます。ただ、Rgが存在する図5(b)のルーズコンタクト品がなぜ一般のアバランシェ検査をパスでき、かつ特定の条件下のアバランシェ耐量低下に結びつくのかは推定の域を出ず真因は不明のままです。
なお、この現象は『チップ無断変更』の未承認MOSFETの焼損事故と同じ原因と思われます。ですが上記のようにメカニズムがはっきりしないため根本対策が取れていませんでした。その後、多くのメーカーのMOSFETを同じ回路に使用しましたが問題を起こした事例はなく、当該メーカー製MOSFETの固有プロセスやデザインルールに関係していたのかもしれません。
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
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