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ワイヤーボンド(4) ―― 銅ワイヤーの評価項目とその注意点中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(74)(4/4 ページ)

» 2023年01月27日 11時00分 公開
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銅ワイヤーの将来展望

 国際的な半導体の信頼性の標準化としては車載用半導体規格としてのAEC-Q100、Q101に基づく承認活動があります。
 従来、銅ワイヤーの判定は金ワイヤーを基準として設定されたAEC-Q100/101の環境ストレステストに基づいていました。このことが海外メーカー、特に台湾、中国メーカーを中心に「金ワイヤーと同条件で比較して同等ですから問題ありません」という根拠になっているのです。
 しかしながら車載メーカーから銅ワイヤーを使用したパッケージにおいて市場における故障が報告されたことおよび、金ワイヤーと銅ワイヤーの特性が大きく異なることが再認識された結果として遅まきながらAECは2016年にようやく銅ボンディングワイヤーに特化した要求規格であるAEC-Q006を制定しました。
 AEC-Q006は銅ワイヤーを使用した半導体パッケージに対する追加規格で、従来規格に対して2つの大きな特徴があります。

①ストレス試験の条件がより長期化され、従来の試験条件に対し2倍に設定されました。
例えば銅ワイヤーでの研究事例に基づいてHAST(USPCT)の条件では130℃/85%RHの条件で192Hr(8day)が設定され、またHTSL(高温保存)試験では175℃/2000Hrと長期の接合の信頼性が求められるようになりました。
 実際このような試験条件下では従来の条件で見つからなかった銅ワイヤーの不良が報告されています。

②信頼性試験後の評価には電気特性に加えて接合強度の測定が新たに追加され、試験前後でのボール接合部、ウェッジ接合部の接合強度変化を確認する項目も追加されています。

 これらのことを踏まえると4級塩問題(湿式アルミ電解コンデンサーの電解液漏れ事象)の温度加速性の無さと同様に銅ワイヤーの温度加速性は金ワイヤーに比べると少ないのかもしれません。

 このように銅ワイヤーの信頼性については未だに大学や企業の研究テーマとして取り上げられている研究課題のレベルなのです。温度加速係数すら判然としていない銅ワイヤーの接合技術は完成された技術ではなく、これから開発、完成されていくべき未完の技術と言って良いのかもしれません。

*AEC:Automotive Electronics Council

 ワイヤーボンドについては今回で終了し、次回は半導体のジャンクション/チャネル温度の計算方法について説明したいと思います。


執筆者プロフィール

加藤 博二(かとう ひろじ)

1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。


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