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ジャンクション温度の計算(5)―― 繰り返しパルス列の温度計算中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(79)(2/2 ページ)

» 2023年06月28日 11時00分 公開
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計算精度の検証

 確認のため実際に8式をδ=0.2について計算してみると表1のようになります。ここでδ=0.2ですからパルス幅twで正規化されたパルス周期tsはts=tw/δ=5となります。また定常温度上昇ΔT1はΔT1=0.2×Rth(J-C)で定常温度になっています(計算点①)。

表1:δ=0.2の計算結果
注)表1の計算点は図2の番号と無関係です。

 このような計算をδ=0.1〜0.5、それぞれ10パルスについて計算したものが表2です。また図3表2をグラフ化したものでn=10の値に対する相対誤差で表示してあります。図から多くのハンドブックが採用しているパルス2個分(計算点③)では+10%程度の誤差持っていることが分かります。ただし誤差は高めに出るので得られた値は破壊に対しては安全側になります。
 ですが+5%程度の誤差に抑える必要がある場合にはn=3(4パルス分)程度は計算する必要があると言えます(δ=0.5以下)。

 一方、表2図3から損失の時間比率δが小さいほど少ない計算回数で精度は高くなることが分かります。
 したがってスイッチング電源のMOSFETの温度計算のように損失時比率δが1%以下である場合には1サイクル(2パルス)の計算で1.6%程度の誤差に収まります。このような背景から次回説明するようにスイッチング電源の温度計算ではn=1(2パルス)の値で求めることが広く行われています。
 ただし図3表2は繰り返しパルス列のみによる温度上昇分です。実際の温度上昇は定常(DC的)成分との合算値の12式で計算します。

表2:繰り返しパルス列の温度上昇(ΔT)の収束
下段はn=10から見た誤差
図3:繰り返しパルスのピーク温度の収束

 表計算ソフトの近似曲線機能を使って表2のn=10のΔTについてδによる近似式を求めたものが11式です。また等価熱抵抗Rth(δ)は12式で計算することになります。

*:単パルス時の過渡熱抵抗

 例えば1msの時の図1(a)の特性の正規化熱抵抗はRth(tw)=0.0532 Rth(J-C)=1.0ですから

▶δ=0.1の時
  Rth(0.1)=0.1+0.781×0.0532=0.142

▶δ=0.2の時
  Rth(0.2)=0.2+0.673×0.0532=0.236

▶δ=0.5の時
  Rth(0.5)=0.5+0.4073×0.0532=0.522

 図1(a)での読み値はそれぞれ0.14、0.24、0.52と読めますから十分な精度です。

 この様子をδ=0.5まで求めた結果を図4に示しますが図1(a)の曲線と良好な一致を見せています。

左=図4:12式の計算値 / 右=図1(a)再掲[クリックで拡大]

 ただし、本稿で考えている各式の前提条件は単パルスの過渡熱抵抗Rth(tw)が時間tの平方根(√t)に比例するとしています。
 ですから図4の例では30msを超えるとこの前提条件から外れてきます。例えばδ=0.01ではtwは
 tw=ts×δですから30ms×0.01=300μs以上では計算に誤差が含まれるようになり、n=3、すなわち10ms程度が計算式の限界になります。
 したがってここで仮定した前提条件から外れる長時間域ではRth(tw)をグラフから読み取って繰り返し計算を愚直に行う必要があります。
 また、ここではδ≦0.5以下についてグラフ化しましたが0.5を越える場合は記載していません。実際の温度計算でもそのようなケースはほとんどなく、それ故か多くのハンドブックでもδ=0.5程度が上限となっています。

 今回は繰り返しパルス列の温度上昇について説明をしてきました。パルス損失が問題になる実際のスイッチング電源ではスイッチング周期に占める損失発生時間比率(δ)が極めて小さいことが分かっていますので1回の繰り返し、つまり2発のパルスによる温度変化を調べれば十分だと分かります。
 次回は実際の損失波形を取り上げて温度計算を行い理論の精度を考えます。


執筆者プロフィール

加藤 博二(かとう ひろじ)

1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。


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