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ステップダウン形DC/DCコンバーターの設計(2)たった2つの式で始めるDC/DCコンバーターの設計(4)(4/4 ページ)

» 2023年12月25日 11時00分 公開
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[ジャンクション温度の推定]
 ダイオードの場合は前述のように損失PFが理論的ではありませんし、パッケージの過渡熱抵抗曲線もそろっていない場合が多々あります。この場合には次の方法でTjを推定します。

 まず温度測定ですが熱電対への熱伝導を減少させるため極細(Φ0.1以下)の熱電対で行います。ケース温度は図1のコムにつながっている端子の付け根の温度とし、SMDの場合やアキシャル・リード品の場合は「カソード側リード線の付け根」をケース温度とします。
 Tjはこのケース温度に対して5℃を加えた値をジャンクション温度と見なします。樹脂パッケージ表面で測定した温度をケース温度とする場合は加算温度を10℃としてください。

 一方、パワーパッケージ(TO-220、TO3Pなど)でもヒートシンクに実装しないで使用する場合があります。この場合やアキシャル・リード品の場合、IoはIF(AVE)の20〜30%程度が目安です。つまりIoの4〜5倍程度のIF(AVE)定格品を選択します。ただし、パワーパッケージ自体から放熱できるのは実機では1W程度ですからSBDで1A程度、FRDで0.7A程度が上限になります。
 アキシャルリード品の場合にはカタログの1℃当たり−何Aで記載されている温度低減曲線とダイオードの周囲温度を参考にジャンクション温度が100℃になる電流値を算出します。
 最終的には2つのケースとも前述した方法でTjが100℃以下であることを確認します。

(過渡的電流)
電源投入時には外部負荷容量への充電のために過電流制限が動作する電流が流れる場合がありますがこの場合のダイオード電流IdPは温度ディレーティングを考慮したIFSMやI2tの制限内でなければなりません。次に説明するIFSMやI2tは「25℃+ΔTj」がTj(MAX)に達する短時間シングルパルスの熱定格の別の表記法だと考えてください。

IFSM:最大サージ電流です。50Hz、60Hzの半波正弦波の電流ですから印加時間は8.3msか、または10msのシングルパルスです。
 実際のDC/DCコンバーターでは各部の寄生容量の充放電電流IdMがダイオードD1に流れますがこの値は熱的には大きくは影響しませんのでIFSMの80%に収まっていれば問題ありません。

I2t値:サージ電流の定義幅(8.3/10ms)より短い時間幅のサージ電流に適用される値です。波形は正弦波実効値、あるいは矩形波です。時間が(8.3/10ms)の時はIFSMと同じ値になり、より短い時間ではどんどん大きくなりますがワイヤやチップへのダメージの観点から1msを下限とします。したがってI2tで許される最大電流はIFSMの3倍が限度です。

 前述の過渡的なIdPはI2t値を使った過渡的な温度上昇で規制されます。A2sをI2tの保証値、tWを過電流の持続時間とした時、ジャンクションの過渡温度上昇をΔTjは

式

で推定することができ、ジャンクション推定温度(Ta+ΔTj)がTj(MAX)の80%を超えないようにします。またターンオン時のラッシュ電流IdMや台形波のIdPは温度低減した1ms時のA2s値から決まる制限電流値を超えないようにします。

[計算例]
I2t値の保証値A2sが32の場合、時間幅1msなら何Armsまで使用できるか?

 A2=32/0.001=32,000→A=178Arms(半波正弦波実効値、あるいは矩形波)

 時間幅が2msならA2=32/0.002=16,000→A=126Arms

 注意すべきは、この値は25℃の時の保証値であり、またこの値を適用すると接合温度TjはTj(MAX)まで上昇するという点です。ですからこの値は定常的には使用できませんし、高温で発生するならI2t値を温度低減する必要があります。この温度低減曲線はメーカーから入手してください。
I2t値を繰り返し適用するのであれば過渡熱抵抗曲線をメーカーから入手してTjを計算する必要があります。

図6 図6:ステップダウン形DC/DCコンバーターの電流波形(前回の図3再掲)

 今回は半導体の要求特性と定格の関係について説明しましたが経験則なので詳細は式では表せません。ですから納得のいかない部分もあったかと思いますが経験則とはそのようなものなのです。
 次回は今回説明しきれなかったチョークの設定について説明し、リップル電圧を図式解法で導けるかを検討します。


執筆者プロフィール

加藤 博二(かとう ひろじ)

1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。


⇒【連載「たった2つの式で始めるDC/DCコンバーターの設計」バックナンバー】

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