AIの推論、特にニューラルネットワークの推論処理は膨大な数の演算を必要とし、CPUでは処理が追い付かない場合があります。GPUは、多数のコアを用いてAIの計算処理を並列に実行できるため、CPUに比べて高速に処理を行えます。
例えば、カメラの映像から物体を識別したり、音声データから言葉を認識するAIの推論処理では、ニューラルネットワークが莫大な計算を一度に実行する必要があるため、GPUを活用した並列処理によって、CPUの逐次処理よりも大幅な処理速度の向上が期待できます。
次章では並列処理の詳細について説明します。
例えば、画像をAIが見て何が写っているか判断する時、
……というように、大量の計算を一気に処理する必要があります。
この計算を並列処理で高速化するためには、GPGPUという技術があります
(1)GPGPUとは?
「General-Purpose computing on Graphics Processing Units」の略で、もともとグラフィックス処理用だったGPUを、AI推論や科学技術計算などの一般的な計算処理に活用する技術です。
その中でも、NVIDIAが提供するCUDAという開発プラットフォームがあります。これはGPUの演算能力を効率的に引き出すためのツールで、行列演算や畳み込みといったAIに必要な処理を高速に実行できます。
PyTorchやTensorFlowなどの主要なAIライブラリでも内部的にCUDAが使われており、ユーザーは複雑な並列処理を意識せずに、高性能なAI処理を簡単なコードで実現できます。
ちなみに、OpenCLという汎用的な並列処理の仕組みもあり、NVIDIA以外のGPUやFPGAでも動作します。ただし、AI用途ではCUDAの方が高速で、開発ツールも充実しているため、現在ではOpenCLが使われるケースは少なくなっています。
※グループ会社の菱洋エレクトロでは、主にCUDAに最適化された 「Jetsonシリーズ(Jetson AGX Orin、Jetson Orin Nanoなど)」 を提供しています。
GPUはロボット制御にも用いられています。NVIDIA JetsonとIsaacプラットフォームを使用したロボット制御に関しては、こちらの記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
最新GPUを搭載し、AIを構築および実行するために設計されたパーソナルAIコンピュータ「NVIDIA DGXTM Spark」もリリースされています。NVIDIA DGXTM Sparkに関しては、こちらの記事で詳しく紹介しています。
今回は、GPUの基本構造から、その並列処理の仕組み、CPUとの違いや得意な処理領域、さらにはAIや画像処理における活用例まで幅広く紹介しました。
GPUは、その高い並列処理能力により、画像処理やAIなどの大量のデータを一括で処理するタスクに最適です。特にAIの分野では、学習モデルの高速化やリアルタイム推論を可能にし、ソリューションの価値を大きく引き上げる重要な技術要素となっています。
一方で、全ての処理にGPUが適しているわけではなく、制御系や逐次処理のようにCPUが得意とする領域もあります。そのため、GPUとCPUを適切に使い分けることが、システム全体の最適化には欠かせません。
「自分たちの業務にGPUが使えるのか?」「AIを動かすにはどれくらいの性能が必要なのか?」そんな疑問を持った方にとって、本記事がGPU導入・活用の第一歩となれば幸いです。
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