オペアンプICに個別部品を“ちょい足し”して性能を高めたり機能を拡充したりできる定番回路集。今回は、ダイオードと抵抗を追加して、区間リニア・アンプ(折れ線近似回路)を実現する方法を紹介します。
実現できる機能 | オペアンプの入力振幅に応じて出力振幅を非線形に変化させたり、出力電圧に制限をかけたりできる。 |
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こんな場面で有効 | オペアンプへの入力を非線形出力に変換する機能を使って、三角波入力から正弦波出力を生成する。また、微小信号にはゲインを大きく、過大信号にはゲインを低く抑えるといった応用が可能。 |
今回紹介するのは、一般に「折れ線近似回路」と呼ばれる回路の一種です。オペアンプへの入力振幅の大きさを複数の“区間”に分け、それぞれの区間で、ゲインを変化させることが可能です。
使い方としては例えば、オペアンプへ三角波を入力して、折れ線による近似的な正弦波を出力させることが実現できます。アナログ方式のファンクションジェネレータなどは、この折れ線近似回路を用いて正弦波を生成している機種もあります。また、入力振幅の大きさに応じてゲインを設定できるので、振幅が小さい信号にはゲインを高く設定し、大きな信号にはゲインを低く抑えるといった機能を実現することも可能です。
この「“ちょい足し”回路」の連載では、以前にクランプ回路を紹介しましたが、そのクランプ回路は振幅が“ある一定”以上の信号を一律に制限するものでした(第3回:「思わぬ過電圧にも備えて安心、ダイオード利用の保護回路」、第6回:「過電流や短絡電流の対策に使える電流クランプ回路」)。それに対し今回の回路は、区間(折れ点)ごとにゲインを調整できます。クランプ回路(いわゆるハードクランプ)よりも折れ点の数だけ信号を柔軟にクランプできるので、ソフトクランプ回路とも呼べるでしょう。
具体的にはどのようなゲイン特性が得られるのでしょうか。その例が図1です。横軸がオペアンプの入力電圧、縦軸が出力電圧なので、プロットの傾きが入出力間のゲインに相当します。入力電圧の区間に応じてプロットの傾き(つまりゲイン)が2段階に変化していることを読み取れると思います。
こうした折れ線状のゲイン特性を作り出すには、オペアンプに入力される電圧範囲にダイオードと抵抗で構成する“折れ点”をいくつか挿入します。そうすることで、折れ点の区間ごとにゲインを変化させる仕組みです。具体的な折れ線近似回路の例を図2に示しました。オペアンプ回路にダイオードと抵抗を追加するだけで済み、低コストで実現することが可能です。
早速、シミュレーションでこの折れ線近似回路の動作を確認してみましょう。シミュレーションで使った回路を図3に示します。
VOUT=0Vでは、ダイオードD1とD2のいずれも逆方向バイアスがかかるため開放状態と同じと考えることができ、ゲインAVは、次式で表わせます。
AV=VOUT÷VIN=R2÷R1
D1とD2のいずれか一方が動作しきい値電圧に達するまで、回路のゲインはこの式で求められるAVになり、その間はVOUTにVIN×AVの電圧が現れます。
次に、VINが正の側に振れていく場合(ハイ側)を考えます。D1が導通して順方向バイアスに切り替わると、図3の回路は電気的には図4の回路と等価になります。
VINが負の側に振れた場合(ロー側)も、同様に図3の回路を簡略化して考えることができます。
部品を選ぶ際の注意点としては、バイアス電圧の影響をオペアンプの入力に与えないように、R3の抵抗値をR1に比べて十分大きくとることです。
図2の回路のシミュレーション結果を図5に示します。横軸はオペアンプの入力電圧、縦軸はオペアンプの出力電圧です。
このように、シミュレーション結果から回路のゲインが実際に変化していることが確認できます。抵抗とダイオードだけで組む、簡易的なゲインコントロール回路として使うことができそうです。
今回の回路では、2つの折れ点を作っていますが、ダイオードと抵抗をさらに追加すれば、折れ点の数を増やすことができます。そうすれば、より滑らかな出力に近づけることができますが、その半面、バイアス電圧と抵抗値の設定が難しくなります。
図2で紹介した回路図ではR4とR5に固定抵抗を用いていました。これらを1個の高精度デジタル式ポテンショメータで置き換えれば、折れ点を可変にすることが可能です。この構成だと、R4とR5が異なる抵抗値をとるので、ゲイン(傾き)がハイ側とロー側で異なる出力結果になります。
図6に、ポテンショメータを用いた場合の回路図を示します。
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