セキュリティの観点から言えば、イーサネットには脆弱性が存在します。その脆弱性は、インダストリー4.0の普及に影響を及ぼす最も深刻な懸念の1つです。OTとITの間、またエッジとクラウドの間がつながると、エンタープライズ環境の全体にわたって、情報のオープンな流れが生成されることになります。従って、ひとたびセキュリティ上の侵害が生じると、壊滅的なレベルで影響が及ぶおそれがあります。
インダストリー4.0に関する戦略を練る際には、リスク管理における基本的な検討事項として、セキュリティを取り上げる必要があります。ますます複雑になる今日のネットワークにセキュリティ対策を施す作業は、決して容易ではありません。エッジデバイス、コントローラー、ゲートウェイの内部からスタックの上位層までのシステム全体にわたって本質的な対策を施すには、複数の階層をまたがるアプローチが必要です(図6)。
ここ数年の間に、産業用イーサネットは大きく成長しました。しかし、フィールドバスをはじめとする既存のネットワーク技術もまだ広く利用されています。産業用イーサネットに基づくコンバージド・ネットワークにより大きなメリットがもたらされるということについては、誰もが認めるところです。そうしたメリットの例としては、以下のようなことが挙げられます。
新しい規格の登場/承認は、待ち望まれた移行の加速に必要な触媒の役割を果たします。この移行を強く後押ししているのは、OTシステムとITシステムの統合を強化する高性能なネットワークに対するニーズです。TSNは、コンバージド・ネットワークを実現するための手段です。これを10BASE-T1Lと組み合わせれば、エッジからクラウドのシームレスな接続を実現できます。移行は一夜にして成し遂げられるものではありません。しかし、その潜在的なメリットはかなり魅力的なものです。そのため、産業界の標準的なペースを上回る速さで移行が進む可能性があります。
現時点ではデータ・アイランドが存在し、そこにある情報や知見に自由にアクセスすることはできません。しかし、近い将来、産業用イーサネットを導入するのは標準的な施策になるはずです。そうすると、インダストリー4.0に対する懸念の対象はセキュリティの問題に移っていきます。また、最大限のビジネス価値を引き出すためには、データをどのように活用すればよいのかということが大きな問題として浮上するでしょう。数十年間にわたり産業分野で取り組みを続けてきた、信頼できる企業とパートナーシップを組むことが、対策の一つとして考えられます。
Fiona Treacy(fiona.treacy@analog.com)は、アナログ・デバイセズの戦略的マーケティング・マネージャです。産業用のネットワーク接続を利用するプロセス制御とFAの分野を担当しています。それ以前は、MeasureWareTMを活用した計測技術や高精度の計測技術を対象とするマーケティング業務を統括していました。アプリケーション・エンジニアリングやテスト開発に携わった経験も有しています。リムリック大学で応用物理学の学士号と経営学の修士号を取得しています。
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