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電気二重層キャパシター(5) ―― EDLCの新しい技術中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(56)(2/2 ページ)

» 2021年07月28日 11時00分 公開
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LICの構造

 表2にLICとEDLC、LIBとの材料の比較を、またLICの構造と充電の概念図を図3に示します。
 正極はEDLCと同じで電極表面の電気二重層を介して静電誘導で電荷の出し入れを行います。また陰極は黒鉛などの導電性材料でこの層間にはLiイオンがあらかじめドーピング(添加)されていて直接Liイオンの吸蔵放出を行います。

表2:LICの材料比較
LIC EDLC LIB(参考)
正極 活性炭 活性炭 Li含有金属
陰極 Liドーピングされた黒鉛など 活性炭 炭素系
電解液 リチウム塩を溶解した
有機系電解液
有機系/水系 有機系
図3:LICの充放電概念図

LICの充放電

  1. 図3(a)はLICの初期状態です。陰極は黒鉛などの層間にLiイオンがあらかじめドーピング(添加)されていますので陰極ではe+Li←→Liの酸化還反応が平衡し−3V程度の電位で安定します。正極は電解液中に存在するLiイオンによって負に帯電し、結果としてLICの正負電極間は2V程度に充電されています。
  2. LICの充電が始まると正極の+帯電によりLiは反発して正極から順次離れて行きます。LICの充電電圧が3Vに達するとLiは完全に正極を離れ、電解液中のLiの一部は陰極に吸蔵されていきます。この陰極の様子はLIBと同様です。
  3. さらに充電が進むと電解液中のLiイオンは全て陰極に吸蔵されます。この状態が定格電圧になり、定格以上に充電すると正極で電解液の分解が始まります。

 このように、正極は、EDLCと同様に物理吸着のメカニズムを取るのに対し、陰極はリチウムイオン電池の陰極材と同様にリチウムイオンの吸蔵放出が起こる化学反応を伴います。この点で、他の蓄電デバイスとはメカニズムが異なります。

 また図3(a)の初期状態以下に放電が進むと陰極のプリドープされたLiイオンが全て電解液中に放出されてしまいます。この状態から充電しても完全には初期状態に復帰せず容量抜けの状態になります。LICはLIBと同じく放電モニターが必須と言えるでしょう。

LICの高容量化

 図4(a)に示すEDLCにおいては電源からEDLCの正極側の二重層に+Q、陰極側の二重層から電源に−Qの電荷が移動してΔVCの電圧変化になりますのでC=ΔQ/ΔVCで容量値は計算できます。
 一方、図4(b)のLICでは陰極電位が電荷の影響を受けませんのでキャパシターの電位変化は正極部の電位変化分のみになります。
 つまり、電荷Qの移動に対してΔVC/2の電圧変化になりますので容量は約2倍になることが分かります。

図4:キャパシター内部電位図

LICの高電圧化

 LICの正極の電位は図4から分かるようにLICの電圧はΔVC/2+3Vで計算できます。つまりEDLCでVc=2Vの場合ならLICでは概略ですが3+2/2=4Vまで定格電圧を上げることが可能になります。
(下限電圧は3−2/2=2V)

 上記の2つの効果を組み合わすことでLICはEDLCに比較して電力密度、エネルギー密度を向上させることができますがその反面、放電下限電圧を制御することが求められます。

 EDLCはまだ開発途上の部品です。新しい技術が開発されればより使いやすい優れた部品になりますので今後も注目していきたいと思います。
 キャパシターについては今回のシリーズで一応の区切りとし、次回はマイコンなどに必須の水晶、セラミックなどの共振子について説明をします。


執筆者プロフィール

加藤 博二(かとう ひろじ)

1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。


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